工業的な食肉生産は、環境にも動物にも気候にも大きな負担になります。肉食とベジタリアンでは、温室効果ガス排出量に約60%の差があるとの報告もあります。また、肉の食べ過ぎは健康も害します。植物豊富な食事は、人間と地球環境の両方の健康を叶えます。書籍『ドローダウン』では、地球温暖化を逆転させるための解決策として「植物性食品を中心にした食生活」を100位中の4位とランク付けています。ありふれた日々の食事が、画期的な解決策になるのです。
知っておきたいこと
植物性食品を中心にした食生活には、どんなメリットがあるの?
健康にいい
- 生活習慣病の改善や予防
植物ベースの食事では、飽和脂肪酸の摂取が減るため、心臓病のリスクが下がります。それ以外にも、肥満、高血圧、糖尿病などの慢性疾患のリスクを低減する効果もあります。 - 低カロリーで高栄養
植物性食品はカロリーが低く、それでいてビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素が豊富なので、満腹感を得やすいです。これは、体重管理や健康増進に役立ちます。 - 人畜共通感染症の予防
アメリカ疾病予防センターによると、新しく発生する感染症の 75% は動物由来であるとされています。感染症の主要因の一つには森林伐採があります。家畜とその飼料栽培のために森林が減り続けることが、新しいパンデミックが起こりやすい状況を作っています。
環境にいい
- 温室効果ガスの削減
工業型の畜産業は、大量の温室効果ガスを排出します。家畜から排出される温室効果ガスは、世界の温室効果ガス排出量の約14%を占め、世界中のすべての乗り物から排出される総量に匹敵します。中でも、牛肉や乳製品の生産は特に、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素を多く排出します。植物ベースの食事で、これらを大幅に削減することができます。 - 水資源の節約と水質の保全
食肉生産は、動物の飼料や飼育、屠殺や加工に至るまでの事業全体で、大量の水を必要とします。具体的には、1kgのステーキを作るために約20,000L、牛乳1Lで約550Lの水が必要になります。また、工業型畜産で使用される大量の抗生物質やホルモン剤などを含んだ排泄物が、水路から川や海に侵入して水資源を汚染することもあります。 - 土地の有効利用
食肉の生産は、地球の陸地の26%を使用しており、森林破壊の主な原因となっています。動物に食べさせるための、大量の穀物や大豆が必要となるからです。こうした飼料の生産では、農薬や化学肥料を使った単一栽培が行われており、土壌の劣化にもつながっています。
1kgのステーキを作るには、25kgの穀物が必要です。飼料作りに使っている土地を人間が直接食べる作物の生産に当てれば、必要な土地はぐっと少なくなります。
経済的
野菜や果物は多くの場合、肉や乳製品よりも価格が手頃です。つまり、これらを食卓の中心に据えれば、食費を抑えながら栄養豊富な食事を摂ることができます。また、地元で生産された野菜などを購入することは、地域経済を支援することにもなります。
エシカル
現在盛んに行われている工業的畜産は、動物の飼育環境などに倫理的な問題を抱えています。植物ベースの食事を選ぶことは、これらの問題への関与を減らすことにつながります。また、より環境負荷の少ない、再生的な食糧生産システムを後押しし、食糧危機の解決も後押しできます。
菜食を生活に取り入れるのってむずかしい?
菜食は、工夫次第で簡単に生活に取り入れられます。
徐々にはじめる
まずは、「ミートフリーマンデー」のように、週に1日だけ肉を食べない日を作ってみるのがおススメ。一日のうち1食だけ菜食にするのもいいかもしれません。例えば、朝食にスムージーやフルーツ、昼食にサラダや野菜たっぷりのサンドイッチを取り入れるなどのアイディアがあります。
簡単なレシピを試す
ヴィーガン(完全菜食主義者)向けレシピのサイトなどで、簡単に作れる菜食のレシピを調べてみます。例えば、パスタ、カレー、サラダ、スープなど、具だくさんのメニューは冷蔵庫の野菜の整理にもなります。
お肉の代わりになるものを見つける
豆腐、豆類の他にも、テンぺのようなちょっと変わった食品、お肉を真似した植物ベースの代替肉など、さまざまな選択肢があります。
レストランを開拓する
ベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガンメニューのあるレストランを探してみます。おしゃれなカフェの発掘につながったり、まったく知らない他国の食文化に触れるきっかけになったりするかもしれません。
また、サラダバーやデリで、野菜たっぷりの料理を選ぶのもよい選択肢です。
おやつも楽しむ
菜食はおやつにも取り入れられます。フルーツ、ナッツ、野菜スティックやチップス、フムスなどお豆で作ったディップなどなど。最近はヴィーガン対応の焼菓子やチョコレートなども充実しているので、探してみるのも楽しいと思います。
もっと知る
書籍
『食卓から地球を変える』ジェシカ・ファンゾ/日本評論社
『菜食への疑問に答える13章:生き方が変わる、生き方を変える』ジェリー・F・コーブ/新評論
海外の事例
Foodprint(アメリカ):食事が環境に与える影響についての意識を高めるための情報や、外食、料理、買い物、自分で食べ物を育て、地元の生産者をサポートするためのガイドを提供している。
Ultra-Processed Planet(アメリカ):超加工食品が環境と気候に及ぼす影響に関する土壌協会のレポート。
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解決策リスト
「私」にできること
植物性の食品を食卓の中心に置きます。
家の中でも外でも、植物性の食事を身近にするさまざまな商品やサービスがあります。それらを活用して、まずは週1回からでも、動物性食品に頼らない食事にチャレンジしてみるのはどうでしょうか。
- 植物性の材料を使った食品を選びます。キューピーやカゴメはそれぞれ、植物由来の原材料を使用した食品扱う新ブランドを展開しています。
- 野菜や果物を使ったメニューのレパートリーを増やします。ヴィーガン料理に特化したレシピ投稿サイトはもちろん、一般的なレシピサイトでも、身近な食材を使った庶民的なレシピを豊富に紹介してくれているユーザーがいます。
ヴィーガン料理に特化したレシピ投稿サイト。栄養の知識についてもまとめています。
- 植物中心のメニューを扱うレストランを開拓します。日本ベジマップやVegewelは、ベジタリアンやヴィーガンに対応したレストランやお店をまとめたマップを掲載しています。また、ベジタリアン、ビーガンのための日本ガイドは、ベジタリアン、ヴィーガンの日本旅行者のためのガイドサイトで、日本語でも閲覧できるため、ベジタリアン対応のレストランや小売店を探すのに役立ちます。
多様な植物製品を食べます。
環境負荷の軽減や栄養面でのメリットは、在来野菜を含む幅広い植物を食べることでより大きくなります。詳しくは「植物の多様性」のページを参照ください。
肉の消費量を大幅に減らし、季節の野菜を食べます。
肉は私たちの食生活において、主食ではなく贅沢品であるべきです。工業用食肉の生産は、大気と水の汚染、森林破壊、水の使い過ぎ、土地の劣化、大量の温室効果ガスの排出、動物の飼料を栽培するための農地の無駄な使用などを引き起こしています。肉の食べ過ぎは慢性疾患の原因になり、何百万人もの人々に影響を及ぼし、医療システムに負担をかけています。年間の肉の消費量を大幅に減らすことで、環境負荷を軽減し、健康的になり、気候変動を阻止することができます。(「ヘルスケア(作成中)」のページを参照)
- 日本には古くから、野菜や豆腐など植物性の食材のみで作る精進料理の文化があります。元々は仏教の戒律を守る修行僧の食事として生まれましたが、最近では健康食としても注目が集まっています。典座ネット〜旬の精進料理レシピ〜では、家庭で気軽に実践できる禅寺の料理を紹介しています。
大豆ミートは、肉を植物性食品に置き換えていくときに手軽に取り入れられるタンパク源です。
- 持続可能な食料生産と食生活への変革を訴える北欧のEAT財団と、医学雑誌のランセットが共同で行なっているプロジェクト、EAT-ランセット委員会の包括的な報告書(2019年)では、人の健康と地球の健康を両立するプラネタリーヘルスダイエットを提唱しています。具体的に何をどのくらい食べればよいのか、また動物性食品をどのくらいまで減らせば効果的なのかが分かりやすいです。
プラネタリーヘルスプレート
体積比で約半分を野菜と果物で構成し、残りの半分をカロリーへの寄与度で表したもの。全粒穀物、植物性たんぱく、不飽和脂肪酸が主なカロリー源となる、地球にも心身の健康にもやさしい食事です。(EATランセット委員会「持続可能なフードシステムからの健康的な食事|食事と地球と健康」より抜粋・改変)
- 気候変動への影響という点では、食べ物がどこから来たのかは、何を食べるかほど重要ではありません。動物性食品は植物性食品よりも二酸化炭素排出量が高く、牛肉がその筆頭です。
- 庭やベランダで身近な野菜を育てる家庭菜園もオススメです(「植物の多様性」、「堆肥」のページを参照)。
人工的かつ高度に加工された代替肉は避けてください。
環境に負担をかけずに肉を食べたいと考える消費者向けの代替品として、細胞肉や、過度に加工された植物由来の代替品が売り込まれています。しかし、これらの製品には次のような大きな問題点があります。
- 高度に加工された植物ベースの肉は自然食品ではなく、こうした肉の健康への影響は十分に研究されていません。例えば、血液中に含まれる鉄含有化合物を再現する「ヘム」などの合成添加物は、人間の健康に長期的にどんな影響を及ぼすかわかっていません。
- 細胞肉(培養肉、人工肉、実験室培養肉とも呼ばれる)は、動物から採取した細胞を利用し、高度な技術を用いて作成されます。培養肉の生産によって排出される二酸化炭素は、牛を食べないことによるメタンの減少を上回っており、温暖化を促進するものであると報告されています。また、技術的、経済的な課題が、培養肉を高価なものにしています。現状、こうした合成製品の安全性を保証する規制の枠組みは存在しません。
それぞれの立場でできること
飲食店や、教育機関・職場などの食堂は、ヴィーガンやベジタリアン対応のメニューを提供します。
これは、植物性の食品を中心にした食生活を身近にするだけでなく、信仰や宗教、健康上の問題や個人的なポリシーなどから菜食を選択している人たちが、不自由な思いをしないためにも大切です。
- 株式会社ゆいまーるは、一般飲食店への菜食メニューの導入、スタッフの教育や広報活動などを支援しています。
- べジプロ大学は、ベジタリアンやヴィーガンに対応した食事メニューを学生食堂で利用できるようにするプロジェクトです。それぞれの大学の学生が主体となり、学生や食堂、食堂利用者に働きかけることをサポートしており、東京大学、京都大学、名古屋大学、一橋大学などでの導入に貢献しました。また、それ以外の大学でも、各大学独自の生徒主導の活動により、菜食メニューの提供を開始しているところが数多くあります。
- 社員食堂運営大手のLEOCは、全国1,000以上の事業所で菜食メニューを提供しています。また、給食会社のニッコクトラストは、内閣府の食堂や全国の社員食堂で、ミートフリーマンデー(健康や環境保護を目的として、週1日の菜食を進める活動)キャンペーンを導入しています。
動物性食品の代わりとなるような、植物性蛋白を豊富に含んだ製品のレパートリーを増やします。
これにより、植物ベースの食事が普及しやすくなるだけでなく、より幅広い消費者にアプローチできるようになります。
政治・法律 Governance
政府は、市民の健康増進と環境保護のために、植物ベースの食事についての指針を示し、その重要性を啓蒙します。
具体的な摂取目標や基準を定めることで、多くの人が採食に取り組みやすくなり、安心して新しい食生活に移行できるようになります。
参考: Plant Diversity
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