土地を健全な状態に戻すことで、大気中の大量の二酸化炭素を土壌に取り込むことができます。何百万人もの人々の生活を支え、野生動物の生息地を改善することもできます。水の供給量も増やすことができます。
国連は、2021〜2030年を『生態系再生の10年』と宣言しました。
※ 茶色は海外サイトへのリンクです。
知っておきたいこと
数字で知る
- 荒廃した土地は、地球上の全土地の約25%
- その土地で生計を立て、影響を受けている人々は約20億人
- 移住を強いられているのは数百万人(貧困のために身動きが取れない人々は推定10億人)
- 荒廃した土地のうち、貧困率の高い地域に位置するのは40%
土地はどのように荒廃するの?
土地は、長期的な生態学的健全性が損なわれたり、衰退したりした場合に「荒廃している」とみなされます。原因には、以下のようなものがあります。
土壌侵食
最も一般的な原因の一つです。土地を覆っている植物などが取り除かれ、土壌が雨風や融雪の浸食力にさらされることで起こります。
森林伐採、単一作物の工業的農業、開墾、家畜の過放牧
土壌を保護している植物などが失われる原因になります。
化学肥料や農薬の散布
地下で土の粒子をつなぎとめている微生物がいなくなってしまい、土壌の安定性が損なわれます。
外来種
在来植物が外来種に置き換わると、その土地に適した昆虫や鳥類が減少し、彼らに受粉や種の散布を助けられていた植物が失われ、土地の劣化につながります。
気候変動
豪雨や熱波、自然火災の増加によって、土壌は被覆を失い、侵食されます。
土地の荒廃は何を引き起こすの?
生態系サービスを損なう
生態系サービスとは、栄養価の高い食べ物、きれいな水、作物の受粉、汚染の除去、炭素隔離(大気中の二酸化炭素やメタンなどを生態系の中に取り込むこと)、休養や楽しみといった、文化的・精神的な恩恵など、自然が人間に与える、不可欠な恵みのことです。
(具体的には、「花粉媒介者(ポリネーター)」、「湿地」、「キーストーン種」、「泥炭地」、「淡水」、「熱帯林」などのページを参照してください)
作物の収量が減る
土壌が農場から流出するとき、リンや窒素、カリウムといった、植物にとって不可欠な栄養分も一緒に失われます。このため、作物に含まれる栄養素や作物の収量自体が減ってしまいます。
土地を捨てて移住する人が増える
土地の荒廃は、その土地に依存する人々の食料や住居を奪い、貧困を助長し、移住を余儀なくさせます。
紛争や政治不安を引き起こす
食料やきれいな水の不足、移住者の増加などが紛争の火種になります。
野生生物の健全な生息地が失われる
野生動物に健全な生息地を提供する自然の力が失われます
砂漠化に至る
土地の荒廃を放置すると、深刻な永久的な劣化につながる可能性があります(詳しくは「砂漠化」のページを参照ください)。
土地はどのような方法で再生できるの?
農業を見直す
- 環境再生型農業(詳しくは「環境再生型農業」のページを参照)
- 土壌を改善しながら、自然環境の再生に繋げることを目指す農業で、土壌の有機物が増えることで大気中のCO2が土中に隔離され、気候変動を抑制する効果があります。有機肥料や堆肥の活用など、古来の知恵が土台になっています。
- 農業生態学(アグロエコロジー)(詳しくは「農業生態学」のページを参照)
- 環境再生型農業の実践を活用し、農地を生態系として捉える自然ベースの食料生産システムです。これは、世界各地の先住民農業と伝統的農業と現代のテクノロジーを組み合わせたもので、荒廃した土地の再生に多方面で役立ちます。
- 森林農法(アグロフォレストリー)(詳しくは「森林農法」のページを参照)
- 農業と林業を組み合わせた農法で、植林によって侵食が進む田畑や川岸を安定させることができます。
- 多様な作物を栽培する(詳しくは「植物の多様性」を参照)
- その土地に適した在来植物や伝統作物を栽培します。
森を守り育てる
- 植林と森林保護
- 損傷した土地を修復し、侵食の進行を遅らせます。
健全な水循環を取り戻す
- 河岸と河川を回復する
- 陸上の損傷した水循環を再生できます。
- 湿地を修復する(詳しくは「湿地」のページを参照)
- 水質や野生生物の生息環境を改善し、生態学的に多くの利点をもたらします。
- 小規模な水循環を促進する(詳しくは「雨を降らせる」のページを参照)
- 局地的な降雨量が増加し、地域社会や農業、野生動物に水を供給します。
劣化の悪循環を食い止める
- 荒廃した土地の区画を修復する
- かつての鉱山など、荒廃した土地の区画を修復することで 、土壌浸食の原因を減らし、下流への土砂流出を抑えることができます。
もっと知る
書籍
『土の文明史』デイビッド・モンゴメリー/築地書館
『土を育てる: 自然をよみがえらせる土壌革命』ケイブ・ブラウン/NHK出版
『「大地の再生」実践マニュアル 空気と水の浸透循環を回復する』矢野智徳、大内正伸/農山漁村文化協会
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以下は、荒廃した土地を再生するための世界各地の取り組みです。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。
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解決策リスト
「私」にできること
地域で行われている修復プロジェクトやイベントにボランティア参加します。
- 野生の花粉媒介者の生息地保護
- 植林
- 先住民コミュニティと協力しながらの森林保護
- 土地所有者と協力しながらの、荒廃した土地の再生
- 野生生物の回廊を復元する農家をサポート(詳しくは「水と緑の回廊」のページを参照)
- 鉱山を自然保護区として復元
- 放棄された牧草地や農地を、自生の植生で復元
- 川沿いの開発で荒廃が進んだ湿地の再生
- 在来植物の保護
- 外来種の除去

森林を共有財産(コモンズ)として共同購入し、自然の再生や保全活動を行っています。具体的には、植生調査や保全活動の実施、伝統的な知恵を活かした森林資源の持続可能な利用、自然観察会やワークショップを通じた啓発などを通して、地域コミュニティと協力し、土地荒廃防止の意識向上を図っています。
- 虔十(けんじゅう)の会:ツリーハウスの制作や天狗トレイルの整備などを通じて、高尾山の森林保全や生物多様性の維持に取り組んでいます。
- NPO法人 友部コモンズ:茨城県笠間市を拠点に、里山の再生と共助コミュニティの形成に取り組んでいます。たとえば、地域の親子や都市部で農業や移住に関心のある人々に、有機農業を体験する機会を提供したり、地域の人々に森林や土壌、生物多様性について理解を深めてもらうため、森での皮むき間伐ワークショップや、小中学校向けの環境教育出前授業、環境・社会課題に関する映画上映会や対話会を開催しています。
公有地の修復プロジェクトを支援します。
- かながわトラストみどり財団:トラスト会員からの支援会費や寄附金を活用して、ボランティアによる自然再生活動や維持管理活動を行う「トラスト緑地保全支援事業」を展開しています。
修復プロジェクトを支援するため、オンセットを購入します。
(オンセットは、温室効果ガスの正味削減を生み出す炭素クレジットです。詳しくは「オンセット」を参照)
生態系再生キャンプに参加します。
生態系再生キャンプとは、ジョン・リューとアシュリー・ブラウンによって共同設立された国際的な組織で、個人と地元住民が協力し、荒廃した森林の修復、湿地の再生、再生型農業への参加などの革新的な修復プロジェクトに取り組んでいます。
土地修復に関するトレーニングを受けたり、修了証を取得したりします。

造園技師・矢野智徳が長年の観察と実践を通じて確立した環境再生の手法を学べる講座やワークショップを開催しています。
- NPO法人地球守(ちきゅうもり):土壌の健康を取り戻すための研究から得た知見をもとに、自然環境を保全・再生する方法についての講演会やワークショップを行っています。
- 一般社団法人Silva(シルワ):土地本来の植生を再生する「生態系機能回復式 植生復元」を推進しています。さらに、Silvaは森林再生指導員の育成を通じて、専門家の指導のもと、植生景観の復元に取り組む人材を増やすことにも注力しています。
それぞれの立場でできること
枯渇した土壌に炭素を再び蓄積し、土地の状態を改善する鍵となる、環境再生型農業を取り入れます。
環境再生型農業は、以下のような要素で構成されます。
- 有機不耕起
- 保全耕作
- 被覆作物
- 家畜と農業を組み合わせる(「有畜農業」のページを参照)
- 森林農法(アグロフォレストリー)(「森林農法」のページを参照)
- 堆肥化(「堆肥」のページを参照)
- 林間放牧(シルボパスチャー)(「林間放牧」のページを参照)
再生実践を推進するマーケティング、リサーチ、起業家精神にあふれたビジネスと連携します。
- 農業を脱商品化する農家や牧場主向けのビジネスモデル
- 企業が使用する有機再生基準の認証
外来種の樹木や植生を除去し、在来種に植え替えます。
- 地域の条件に適した在来種を選びます。たとえば乾燥地では、ヤナギやハコヤナギなどの干ばつに強い樹種がオススメです。
- 地域性苗木を栽培している専門家のコラムも参考になります。
健全な土地に不可欠な小川と河畔地域の修復を行います。
- 河岸の専門家ビル・ジーディックによる「水に仕事をさせましょう」は、移動する水の再生力を利用して川岸を再形成し、氾濫原を再建する方法を解説するマニュアルです。
- 日本では、NPO法人 地球守が、有機土木®と呼ばれる自然本来の力を生かした伝統工法による、河岸の再生プロジェクトを行っています。
土地修復の専門家に相談してください。
- 土地所有者向けのコンサルタント
- ワークショップやセミナーを開く個人コンサルタント
- 土地修復を専門とする地元の専門家や企業を見つけることができる資料
修復作業を行っている流域グループに参加します。
サプライチェーンの一環として、土地を劣化から回復させる環境再生型農業の実践を支援します。
自然資本と生態系サービスへの投資を事業計画に組み込みます。
土地再生の経済的根拠は、自然の価値と、それが提供するきれいな水などの生態系サービスに基づいて作成できます。
- 南アフリカのトゥゲラ盆地で行われた調査では、土地修復の利益がコストを上回ると結論付けられています。
- ビジネスコミュニティと協力する非営利団体Ceresは、森林破壊と気候変動に関する投資家向けガイドを提供しています。
- Dendra Systemsは、地域コミュニティによる生態系再生計画の策定を支援する企業です。
民間資本を活用して保全プロジェクトを支援します。
投資家、非営利団体、民間企業、公共部門間の金融パートナーシップは、脆弱なコミュニティが直面する気候変動の課題に対応するのに役立ちます。
- ワイエルフォレスト株式会社:インドネシア政府の認可のもと、マングローブ植林保全事業を行っています。
自然環境保護団体と提携して、気候危機の解決策を実行します。
- ユニリーバは、景観の回復、森林再生、炭素隔離を支援するために、10億ドルの気候と自然に関する基金を創設しています。
- Appleは、コンサベーション・インターナショナルと提携して、コロンビアのシスパタ湾にある 27,000 エーカーのマングローブ林の保護と復元を行っています 。
政治・法律 Governance
健全な土壌の保全や、修復・再生を支援するための法律を可決します。
- 英国政府は、熱帯雨林の破壊や劣化に関与する企業を制裁する法律を導入しました。
財政再建プロジェクトを推進します。
- 公有地を持つ国では、政府機関が国立公園の湿地の修復など、修復プロジェクトを主導できます。
土地再生の政策と目標を策定します。
- 米国森林局は、2016 年に発行された生態系再生政策に基づき、土地の修復作業を行っています。
土地をこれ以上劣化させないように保全します。
- 国立公園や記念碑の創設、自然保護区の設置・指定を行います。
- 米国では、2020 年に署名されたグレート・アメリカン・アウトドア法の成立によって後押しされた基金を活用して危機に瀕した土地を政府が購入できるようになりました。
大学、NGO、地主、民間企業と連携し、修復作業を促進します。
伝統的な知識を尊重し、公有地で伝統的な慣行を継承・実践します。
- 在来植物の復元プロジェクトなどを推進します。
※ このページはグローバル版NexusのDegraded Land Restorationを下敷きにしています。
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