海の生態系は、地球上で最も絶滅の危機にさらされている生態系のひとつです。汚染や乱獲、沖合の掘削や海底採掘などの人間活動による被害と、気候変動に伴う海洋酸性化や気温上昇などが原因です。海洋保護区は、さらなる被害を防ぐだけでなく、驚くほどに海をよみがえらせる可能性のある有効策です。
※ 茶色は海外サイトへのリンクです。
知っておきたいこと
数字で知る
- 海洋は地球の表面の 70%を占め、そのうち 27% が領海、43% が国際水域です。
- 250万kmを超える世界の海岸線のうち、60万kmに人類の約3分の1が住んでおり、無数の水生生物と同じように、健全な海洋環境に頼っています。
- 大気中の酸素の約50%は、海洋で発生したものです。
- 海洋は二酸化炭素の重要な吸収源であり、大気中に放出される二酸化炭素の約31%を吸収します。
- 藻場は毎年、海洋堆積物に含まれる炭素の約10%を隔離し、マングローブは面積あたりで熱帯林の約2倍の炭素を隔離します 。
- IUU漁業(違法・無報告・無規制に行われている漁業のこと)は世界で6番目に大きな犯罪とみなされています。海で捕獲される魚の最大5匹に1匹がIUUによるもので、その価値は年間235億ドルにも上ると推定されています。(「国際的な漁船団」のページを参照)。
- IUUの結果、大型捕食魚の約90%が世界の海から姿を消し、魚種の30%が持続不可能なレベルまで乱獲されています。
- 海洋保護区をつくり、魚類を守れば、個体数は約4倍にも増やせるという報告もあります。
以下はWWFとせやろがいおじさんのコラボレーション動画です(音量注意)
海洋保護区ってなに?
海洋保護区(Marine Protected Area; MPA)とは、海洋の一部を特別に保護し、保存するために作られた地域です。これらの地域では、海洋生態系の保全と回復のため、漁業、採掘、開発活動などが制限または禁止されています。
世界の海洋保護区は、MPAガイドにわかりやすくまとめられています。
海洋保護区はなぜ必要なの?
海はさまざまな危険に脅かされているから
海洋、海、湾、河口は地球を健康に保つために重要な役割を果たしています。しかし、各国の国家管轄権が及ばない広大な外洋地域は、地球上で最も保護が進んでいない地域の1つです。
- 沖合での石油やガスの掘削は流出のリスクを伴い、海洋生物多様性の脅威となります。また、これらの化石燃料が燃やされることで、気候変動や海洋酸性化が進行します。
- 港湾や河川などの底にある土砂を掬いとる浚渫(しゅんせつ)工事は、特に急峻な地形と多雨の日本においては、上流からの土砂が下流や沿岸部に堆積するため、港湾機能維持に不可欠です。しかしこの作業は、世界中の海洋保護区に大きな損害をもたらしてきました。
- 大型船舶に取り付けられたトラクターで鉱物を吸い上げる深海底採掘が広まっていることも、海洋生態系と海洋生物への大きな脅威になっています(「深海底採掘」のページを参照)。
生物多様性の保護のため
- 種の保護
海は、小さなプランクトンから、世界最大の現生動物であるシロナガスクジラに至るまで、地球上の何百万もの動植物の生息地になっています。海洋保護区はこれらの生物を保護し、絶滅の危機に瀕している種の保存に貢献します。 - 生息地の保全
沿岸生態系(海岸線を挟む陸域から海域に及ぶ区域の生態系)を含む海洋保護区は、ブルーカーボン生態系の保護と回復に役立ちます。サンゴ礁、マングローブ、藻場などの多様な生息地は、幼魚や他の海洋生物にとって重要な育成場です。また、植物とその生育地の下の堆積物は、多くの炭素を捕捉して貯蔵します。
漁業資源の持続可能性を高めるため
- 漁獲圧の軽減
過剰な漁獲は多くの魚種の減少を招いています。海洋保護区という禁漁区をつくることは、一見すると漁業者の不利益になるように思われますが、長い目で見ると魚の個体数が回復するため、漁業を守ることにつながります。 - 漁場の回復
保護区内で魚種が繁殖し、保護区域外に移動することで、周辺の漁場も魚種や個体数がふえます。これにより、保護区の外にある漁場での漁獲量が大きく増えます。

気候変動の緩和と適応のため
- 炭素吸収と貯蔵
健康な海洋生態系は、二酸化炭素を吸収し炭素を貯蔵する役割を果たします。保護区内の動植物が炭素を取り込み、何百年にもわたって貯めておく働きをするのです。
もし2030年までに地球上の海洋の30%を保護できれば、魚が増え、二酸化炭素が減って、植物プランクトンのおかげで酸素レベルが上昇し、私たち陸上生物は大きな恩恵を受けます。これにより、地球温暖化も、海面自体の酸性化も、さらに進まないように守られます。 - 気候変動へのレジリエンス強化
海洋保護区は海洋生態系を助け、自然災害から海岸線を守ることができます。たとえば、 海岸線に沿った地域のマングローブ林やサンゴ礁を保護すると、海洋生物に健全な生息地を提供すると同時に、洪水や津波の被害を軽減することができます ( 「マングローブ」および「サンゴ礁」のページを参照)。これにより、人間の居住地域を、高潮、ハリケーン、海面上昇から保護してくれます。
沿岸部コミュニティの生活の改善のため
健康な海洋生態系は、沿岸コミュニティの食糧供給や収入源を安定させ、生活の質を向上させます。
- 経済的利益
海洋保護区はダイビング、シュノーケリング、エコツーリズムなどの観光活動の場としても重要です。これらは地元住民に仕事の機会を提供し、地域社会に長期的な利益をもたらします。また漁業従事者は、 MPA 境界外での魚類の個体数の増加を実感することができます。 - 文化的価値の保護
多くの沿岸コミュニティや先住民にとって、海洋は文化的・精神的な価値を持ちます。海洋保護は海洋の価値を守ることで、地域の伝統を守る役割も果たします。
科学的研究と教育のため
- 研究の場
海洋保護区は自然のプロセスを観察・研究する場として重要であり、科学者が生態系の機能や変化を理解する助けとなります。 - 教育と啓発
海洋保護区は、一般市民に海洋生態系の重要性や保護の必要性を知ってもらうための場としても役立ちます。
海洋保護区の成功のために大切なことは?
完全な禁猟区にする
厳格な保護を行わなければ、海岸に近い保護区は密猟者の格好の標的となってしまいます。そのため、適切な法律や規制を整備し、違反者に対する罰則を明確にすること、監視と取り締まりを行うことが重要になります。
十分な規模を確保する
具体的には、100km2(東京23区の約6分の1)より大きい保護区が成功しています。小さい保護区の場合、魚、幼魚、稚魚が保護区から外にすぐ出ていってしまうため、うまくいきません。
十分な時間をかける
回復に要する期間としてよく挙げられるのは10年間です。これは、海洋生物が増えるだけでなく、彼らによって海水がアルカリ性になり、それが十分に広がるのに必要な時間です。
目標の設定とモニタリング
定期的な定点観測を長期間継続することは、海洋保護区設置の効果を測る上で有用です。こうした調査に基づき、保護区の効果を評価して管理計画を適宜調整します。
地元コミュニティの協力を得る
地元の漁業者や住民の意見を取り入れ、彼らに積極的に関わってもらうことも大切です。そのためには、保護区の重要性と管理方法について地元コミュニティに知ってもらい指示を得ることや、観光収入や持続可能な漁業など、地元経済への利益をもたらすことが求められます。
環境保護団体、漁業管理者、観光開発事業者など、さまざまな分野の関係者が協力して管理することが重要です。
日本の現状は?
環境保護に主眼を置いた保護区は少ない
日本には、国立公園や国定公園の一部として多くの海洋保護区が存在します。日本が管轄する海洋域内における海洋保護区の割合は、約8.3%と試算されています。しかしその多くが領海内で、沖合域で、特に自然環境や生物の生息域保護を目的にした保護区は全くありません。
十分な監視や取り締まりが行われていない
また、多くの保護区は「ペーパー・パーク」と呼ばれ、法的に保護されているものの、実際には十分な監視や取り締まりが行われていないことが指摘されています。面積についても、100km2を満たさない小さなものが多いです。
効果的な保護のためには、より一貫した管理と地域住民の協力が不可欠です。科学的データの収集やモニタリングの強化、そして地域社会との協力を通じて、持続可能な海洋資源の利用と生態系の保全を両立させる取り組みが求められています。
もっと知る
日本語記事
IDEAS FOR GOOD:海洋保護区とは
日本経済新聞:海洋保護区を設けたら漁業が潤う いったいなぜ?
ナショナルジオグラフィック:海洋保護区の設置は、自然も漁業もどちらも救う最善策 研究
natureダイジェスト:南極海に巨大な海洋保護区
環境省:海洋生物多様性保全戦略公式サイト
環境省:30by30
Greenpeace:30×30 海洋保護の未来図(PDF)
WWF:IUU(違法・無報告・無規制)漁業|水産資源の危機|世界の状況と日本の役割
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以下は、海洋保護区を普及させるための世界各地の取り組みです(さらに詳しく知りたい方はグローバル版もご覧ください)。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。
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解決策リスト
「私」にできること
魚介類を買うときは、「海のエコラベル(MSC認証マーク)」のついているものを選びます。
「海のエコラベル」が付いた水産物は、第三者機関の審査によって、水産資源や環境に配慮している持続可能な漁業で獲られたと認証されたものです。このマークがついている水産物は、サプライチェーン全体にわたって非認証のものとは分けて扱われるため、安心して選ぶことができます。
WWFのサイトには、環境に配慮した魚介類の選び方について、わかりやすくまとめられています。
エコツーリズムに参加し、海洋保護区を旅します。
海洋保護区を訪れることは、保護区の世話をしているコミュニティに生計手段を提供し、持続可能な未来を保証することにつながります。
国内
環境省:楽しもうエコツーリズム!(PDF)
- 東京都小笠原村:小笠原諸島は世界自然遺産にも指定されており、ドルフィンスイム、ホエールウォッチング、ダイビング、シーカヤックなどを通して、独自の進化を遂げた固有の生態系が楽しめます。
- 沖縄県慶良間地域 座間味村・渡嘉敷村:慶良間諸島は国立公園に指定されており、豊かなサンゴ礁でのスキューバダイビングやホエールウォッチングが楽しめる場所です。
海外
- グリーントラベルガイド (オーストラリア): シュノーケリング、ダイビング、 ホエールウォッチングなど、オーストラリアの海洋保護区での多くのアクティビティを紹介
- CapeNature (南アフリカ):南アフリカの 6 つの異なる海洋保護区で、ホエールウォッチング、 水泳、 釣りなどの観光活動を行う政府組織
- ジャーニー・メキシコ(メキシコ):環境や社会への影響が少ない旅行体験を提供。メキシコのバハ・カリフォルニア州にあるマグダレナ湾の海洋保護区で、ウミガメの保護活動に参加したり、ホエール ウォッチングを楽しんだりできる
- ミソール・エコ・リゾート(インドネシア):地球上で最も自然の姿を留めたサンゴ礁の 1 つである、ミソール海洋保護区の近くにあるプライベート・アイランド・リゾート。シュノーケリング、ダイビング、カメの放流、スタンドアップ・パドル・ボードなど、数多くのエコツーリズム アクティビティを提供。
海洋保護区のために活動する組織に寄付をしてください。
非政府組織 (NGO) は、海洋の保護において重要な役割を果たしています。寄付や会員資格でこれらの組織を支援することは、保護区の成功に不可欠です。
- WWFジャパン:世界の海に生息する野生生物の個体数の変化を調査する、国内沿岸域の重要な生態系の保全を訴えるといった活動を行っている。漁業やその流通についても、持続可能な資源利用の推進に取り組んでいる。
海洋保全コースを受講してください。
海洋保全は、気候に対する回復力を高め、海洋生息地を回復し、地域社会に雇用を創出することができます。
海洋保護区の創設を呼びかける署名などのキャンペーンに参加します。
それぞれの立場でできること
海洋保護区の創設を呼びかけ、その長期的な利益について知ってもらいます。
環境団体は地域社会と密接に協力することで、地域内の重要な海洋生態系や、絶滅の危機に瀕した海洋生態系を特定し、その保護の必要性についての認識を高めるキャンペーンを実施できます。
海洋保護区における禁漁区(NTZ)の設置を推進します。
2021年現在、 海洋保護区は海洋のわずか7.9%を占めるのみで、その多くでは依然として漁業が認められています。結果として、世界の魚類資源の約90%が過剰に漁獲、および利用されています。
禁漁区(NTZ)はMPA内に設置され、ここでは漁業、採掘、掘削などの採取活動が禁止されます。これは、生物多様性保全の最も効果的な手段の1つと考えられています 。
海洋保全について楽しく学ぶイベントを行います。
ビーチクリーン等の活動をとおして、海洋保全の重要性を知る機会をつくります。 環境保護活動を支援する ボランティア プログラムを提供します 。
政治・法律 Governance
海洋保護区を効果的に特定、指定、確立するためのガイドラインに従います。
- 先住民、地域社会、環境保護団体と協力して、保護すべき重要生物多様性地域(KBA)を特定します。KBAは生物多様性にとって世界的に重要な場所です。
- 海洋保護区は、特に深海や砂地に囲まれている場合は、1000km2以上の広さが必要です。保護区の面積が小さいと、海洋生物が簡単に境界外に移動する傾向があり、保護区が有効なものにならない可能性があります。
- 海洋保護区は最低 10 年間、絶対禁漁区(NTZ)に指定する必要があります。NTZ では、漁業、貝殻採取、昆布の栽培や砂の採掘などの産業利用が禁止されます。これにより、海洋生物の個体群がよみがえり、過剰な搾取から回復できるようになります。NTZは、生物多様性の保全に最も効果的な方法の1 つと考えられています 。
- 海洋保護区は可能な限り、炭素を隔離する沿岸生態系を含めた、 ブルーカーボン生態系の保護と回復に役立てることが期待されます。
破壊的な漁業の仕方に対する対策を強化します。
刺し網漁、 延縄漁、 混獲などの IUU漁業(違法・無報告・無規制に行われている漁業)は、海洋保護区における保全活動に深刻な打撃を与える可能性があります。政府には、IUU漁業に対する政策と徹底した漁業規制が効果的に施行されるようにすることが期待されています。
沖合掘削を禁止または一時停止します。
石油とガスの探査と採掘は海洋保護区とそこに生息する野生生物に大きなリスクをもたらします。石油流出の影響は 数世代にわたって続き、生態系全体を壊滅させ、漁業や観光業などの主要な沿岸産業を破壊する可能性があります。
深海底採掘の国家的な一時停止を約束します。
25か国が国際水域での深海底採掘に反対の立場をとっています。現在進行中のこの交渉にすべての政府が参加することが不可欠です。IUCN世界自然保護会議に出席した81 か国の政府が、モラトリアムに賛成票を投じました(「深海底採掘」のページを参照)。
※ このページはグローバル版NexusのMarine Protected Areasを下敷きにしています。
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