AIGCC報告「現状の気候政策では、日本の経済損失は2050年までに952兆円に上る恐れ」

先日ご紹介したように、地球温暖化対策は、かかるコストをはるかに上回る利益をもたらします。では、日本の現在の対策で、こうした損失を十分に防げるのでしょうか?  

アジア投資家気候変動グループ(AIGCC)が発表した「ネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への移行遅延が日本にもたらす経済的損失」(英語PDF)は、まさにこの疑問に答えてくれる報告書です。

気候変動による経済的損失

現在の気候政策が続いた場合、日本にはどのような影響が返ってくるのでしょうか。報告書では、以下のような深刻な損失が予測されています。

  • GDPの減少:2050年までにGDPが約10%減少  
  • 経済的損失:総額952兆円(約9.2兆ドル)の損失  
  • 家計所得の減少:年間約60万円の所得減少  

特に日本は、主要貿易相手国上位10カ国のうち7カ国がアジア圏。アジアは台風や洪水などの災害が多く、世界で最も気候リスクにさらされている地域の一つであるため、日本経済が受ける影響は、米国や欧州を上回ると予測されています。

脱炭素移行がもたらすチャンス  

一方で、報告書は日本の技術革新の可能性にも触れています。例えば、電化技術やエネルギー効率化、風力発電といった分野での取り組みを加速させ、2050年までに脱炭素を進めた場合、以下のような効果が期待されます。

  • GDPの増加:年間13.6兆円(約1300億ドル)の増加  
  • 気候変動による損失の抑制:気候政策を強化することで、経済的利益と環境保護の両方を実現

政策転換の重要性  

報告書の試算では、現在の日本の気候目標(NDCs)では、地球温暖化を2.3°Cに抑えるのが限界とされています。しかし、目標を1.5°Cに引き下げ、より積極的な政策を導入すれば、気候変動による被害を大幅に軽減できます。さらに、日本が2050年までにネットゼロを達成した場合、年間約40兆円もの損失を回避できる可能性もあります。

気候変動対策と経済は天秤にかけられがちですが、気候危機自体が経済的脅威であることは、もっと広く認識される必要があるでしょう。


アジア投資家気候変動グループ(AIGCC)

シンガポールを拠点に2011年に設立された、11の市場から70以上の機関が加盟する機関投資家グループ。気候変動への対応と持続可能な投資を促進することを目的としており、運用資産総額は39兆米ドル(約5,800兆円)を超える。
AIGCCは、世界的な気候変動対策の投資家ネットワークの一環であり、以下の団体と連携している。

  • PRI(責任投資原則)
  • IGCC(オーストラリア・ニュージーランド投資家気候変動グループ
  • IIGCC(欧州投資家気候変動グループ)
  • Ceres(北米の持続可能な投資推進団体)