CDP報告「温室効果ガスの削減はコストの3倍の利益をもたらす」

「地球温暖化対策なんて金持ちの道楽だ」という言葉を耳にすることがあります。実際に口に出す人は少なくても、「環境対策はお金がかかる」となんとなく思っている人は多いかもしれません。
でも、それは本当でしょうか?
CDP*1とHSBC*2が発表した2024年の報告書(英語PDF)に、その答えがあります。

気候危機の放置は高くつく

企業の活動は、原材料の調達や物流などを含めたサプライチェーン全体で成り立っています。気候変動がこのサプライチェーンに与えるリスクは、世界全体で1,620億ドル(約24兆円)にもなると推定されています。一方で、このリスクを軽減するためにかかるコストは560億ドル(約8兆円)です。なんと3分の1以下です。
つまり、世の中の多くの問題がそうであるように、気候危機も放っておいた方が高くつくのです。

「スコープ3」とは?

ところで、企業が排出する温室効果ガスは、3つに分類されることをご存知でしょうか。 

  • スコープ1:企業が自社で直接排出する温室効果ガス
    (例:工場の燃料燃焼、社有車からの排出)  
  • スコープ2:企業が購入する電力や熱の使用による間接排出
    (例:発電時のCO₂)  
  • スコープ3:企業活動に関連するサプライチェーン全体での排出
    (例:原材料調達、輸送、商品の使用や廃棄)  

この中で最も排出量が多く、減らすのが難しいのがスコープ3です。企業によっては、ここが全排出量の70~90%を占めることもあります。しかし報告書では、スコープ3に取り組むことで得られるメリットも示されています。

脱炭素が生む「効率化」と「節約」

まず、気になるのは経済面。スコープ3の排出削減に取り組んだ企業では、すでに136億ドル(約2兆円)のコスト削減に成功した事例が報告されています。排出を減らすための工夫が、効率の向上や節約につながったのです。
さらに、サプライチェーン全体で気候変動の影響を考慮することは、リスクへの強さももたらします。たとえば、異常気象で物流が止まる、原材料が不足する、という事態を減らすことができるため、サプライチェーンの安定性が高まります。

企業同士の協力がカギ

脱炭素化は1社だけでは難しいものですが、協働すれば足し算以上の効果が生まれます。たとえば、買い手企業が協力して低炭素技術を開発すると、サプライヤー(製品やサービスの提供元)は環境目標を達成しやすくなります。具体的には、科学的に根拠のある「SBT(温室効果ガス削減目標)」を立てる確率が4.3倍高くなる、というデータがあります。
また、買い手企業が提供する「金融インセンティブ(優遇金利や契約条件)」を活用することで、サプライヤーの排出削減率が52%向上したケースもあります。

しかし、現状ではサプライチェーン全体でリスク管理を行っている企業は25%排出削減目標を設定している企業はわずか15%です。  

未来のための「杖」

「スコープ3への取り組みはお金がかかるから難しい」と思われがちです。しかし、実際には何もしない方がはるかに大きなリスクを抱えることになります。異常気象による不作や物流の混乱は、今や私たちの生活に直接影響を与えるものとなっています。  
地球温暖化を食い止めるために、企業がサプライチェーン全体で協力し合うことは、「転ばぬ先の杖」ではなく、すでに転びかけている私たち全員を支える必要不可欠な杖なのです。


*1 CDP(Carbon Disclosure Project;カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)

2000年にイギリス・ロンドンで設立された国際的な非営利組織で、多くのグローバル企業や投資家から注目を集める世界最大の環境情報開示プラットフォーム。気候変動、水資源管理、森林保全に関するデータの透明性を高め、持続可能な活動を促すことを目的に、企業や自治体に環境関連のデータ開示を求め、それをもとに企業や自治体の環境パフォーマンスを評価・スコアリングしている。

*2 HSBC(Hongkong and Shanghai Banking Corporation;香港上海銀行)

イギリス・ロンドンに本社を置く世界最大級の金融グループの一つで、正式な名称はHSBCホールディングス。近年は気候変動への対応として、サステナブルファイナス(持続可能な金融)に力を入れており、企業の脱炭素化支援や、環境に配慮した事業への投資にも積極的に取り組んでいるほか、企業のサプライチェーンや環境対策に関する金融サービスも提供している。