思いやり

複雑に絡み合った環境や社会の問題に向き合うには、文化やさまざまなつながり、そして心の持ち方を変えていくことが必要です。思いやりは、根本からの変化へと踏み出すきっかけになります。日々の行動の中心に親切や助け合いを置くことで、貪欲さや利己主義、無関心といった、問題の根源に立ち向かい、再生への道を切り開くことができるのです。


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知っておきたいこと

「思いやり(Compassion:コンパッション)」って何?

思いやりとは、自分以外の誰かの痛みや苦しみを理解し、それを和らげようという気持ちになることです。ただ単に共感したり同情するだけでなく、具体的なサポートをしようという想いを伴うところがポイントです。

思いやりの4つのプロセス

  • 気づく 誰かが抱える痛みや苦しみに関心を向けます。
  • 意味を持たせる 苦しみに、自分が気にかけるべきものとしての意味を持たせます。
  • 気遣う 苦しみを経験している人を気遣います。
  • 共感を超える行動 苦しみを和らげるために行動します。

思いやりの分類法

  • 家族的思いやり 養育者と子どもの絆に根ざした思いやりで、共感的な行動の基盤をつくります。
  • 地球規模の思いやり 身近な人々を超えて、世界中の見知らぬ人々にまで共感的な関心を広げることを指します。
  • 全ての生命への思いやり 動物や昆虫を含むすべての生き物への思いやりで、生命全体に対する深い尊敬を反映しています。
  • 英雄的な思いやり 自己犠牲を伴う利他的な行動を指します。

私たちが思いやりを向ける対象とそうでない対象を指す、「道徳の輪」という言葉があります。私たちは通常、家族や身近な人を優先し、自分と違う人や遠い存在には関心を持ちにくい傾向があります。しかし、この「輪」は、意識のトレーニングによって広げることが可能です。

思いやりの特徴

思いやりの効果

  • 脳と心にいい 温かい笑顔や優しい抱擁など、思いやりのある愛に関連する行動をとると、体内でオキシトシン(信頼感、寛大さ、つながりの感情を高めるホルモン)が放出されます。
  • つながりを促進する 思いやりは、つながりと相互関係を築く能力を高めます。社会的な絆を強化し、コミュニティや環境との関係性を深めるのに役立ちます。
  • 社会的影響 思いやりのある行動は周りの人にも波及し、社会全体のつながりを強めます。
  • 行動変容 思いやりは利他的な行動を促し、個人や社会の持続可能な発展をサポートします。

「思いやり」はなぜ気候危機の解決に必要なの?

思いやりは、人々のつながりや互いの間に横たわる関係をより深いものにし、社会的・環境的な課題に協力して取り組むための原動力となります。

弱い立場にある人たちを支えていく原動力になるから

気候変動は、特に脆弱な地域やコミュニティに深刻な被害をもたらします。思いやりの心を持つことで、これらの人々の苦境に共感し、彼らを支援するための行動を起こそうという意欲が高まります。

協力的なコミュニティを形成しやすくなるから

思いやりは、個人間やコミュニティ間の協力を促します。気候危機の解決には、政府、企業、市民社会など、さまざまなステークホルダーの協力が欠かせません。家族、学校、地域社会、企業、政治で思いやりを育むことは、共通の目標に向けた連携を強め、効果的な解決策が実現される可能性を高めます。

自然環境への愛着を育むから

自然への思いやりは、自然環境への深い愛着と責任感を育むことで、その保護と再生を促します。

不平等を是正する必要性に気づくから

気候変動は、社会的・経済的な不平等を悪化させます。思いやりの心は、多くの人がこれらの不平等に気づき、脆弱なコミュニティへの支援を行ったり、公正な資源配分を後押しすることにつながります。

長期的視点を持てるようになるから

思いやりを持つと、将来世代への責任を認識することで、短期的な利益よりも長期的な持続可能性を重視するようになります。こうした人が増えれば、気候変動への効果的な対策が講じられ、持続可能な未来の実現が可能となります。

もっと知る

書籍
コンパッションー慈悲心を持つ勇気が人生を変える』トゥプテン・ジンパ/めるくまーる
思いやりの経済学ーダライ・ラマ14世と先端科学・経済学者たち』マチウ・リカール、タニア・シンガー/ぷねうま舎
互恵で栄える生物界: 利己主義と競争の進化論を超えて』クリスティン・オールソン/築地書館
コンパッション・フォーカスト・セラピー入門ー30のポイントで知る理論と実践』 ポール・ギルバート/誠信書房

海外サイト
The Nature Connection Handbook(PDF)

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以下は、思いやりを社会に浸透させるための取り組みです。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。

※ 特に参考になる書き込みは、後ほどコンテンツ内に反映させていただくことがあります。あらかじめご承知おきください。

解決策リスト

「私」にできること

日常生活の中で思いやりを育みます。

まずは、日々の生活の中で思いやりを育みます。あなたには、自分自身やより広いコミュニティのなかで、積極的に思いやりを育む力があります。

自然と触れ合う時間を持ちます。
  1. 快適に座れる場所を見つける:リラックスできる場所に座り、目を閉じます。
  2. ゆっくりと深呼吸する:呼吸に意識を集中し、頭からつま先まで筋肉の緊張を解きほぐします。
  3. 特別な自然の場所を思い浮かべる:自分にとって特別な意味を持つ自然の場所を心に描きます。その場所で聞こえる音や見える景色をできるだけ鮮明に想像します。
  4. 感情に気づく:その場所を思い浮かべることで湧き上がる感情や、その場所に関連する感情に注意を向けます。
  5. その場所が自分の一部であることを考える:その場所がどのように自分の一部となっているか、心の中でどのように生き続けているかを感じ、そしてその感覚を自分の中で呼び起こす方法を考えます。
動物への思いやりを育みます。
動物宣言(英語PDF)

1. 人間と動物の複雑な関係性

  • 人々は動物を愛していると言いながらも、しばしば動物に害を与えたり、命を奪ったりしています。
  • 動物実験のように、動物が苦しむことが人間の利益のために正当化されることがあります。

2. 動物の感情的な生活の認識

  • 行動学や神経科学の研究により、多くの動物が豊かな感情を持っていることが示されています。
  • 動物の感情の否定は、しばしば、動物虐待を正当化するための言い訳に使われます。

3. 思いやりの拡大

  • 人間は、動物に対する思いやりを増す責任があります。
  • 動物の生活に干渉するときは、常に、何が一番動物のためになるのかを考える必要があります。

4. 行動の変革

  • 食生活、衣服の選択、教育、研究、娯楽など、日常生活のさまざまな場面で動物に対する思いやりを実践することが大切です。
  • 動物の福祉をよくするための規制はありますが、それで十分ではなく、個人が行動を変えることが必要です。

5. 科学者の責任

  • 科学者は、動物に対する実験や研究において、倫理的な責任を持つべきです。
  • 動物の感情や福祉を無視することは、科学的進歩の名の下で正当化されるべきではありません。
コミュニティとつながります。
  • ボランティアに参加します。ボランティアには、自分自身やコミュニティの思いやりを育み、その影響力を広げる力があります。「行動する人たち」のページなどを活用して、地元のボランティア活動の機会を探してみてください。
  • 思いやりを育んだり、分かち合ったりできるイベントを企画します。地元のコミュニティ、学校、職場などで、イベントを企画してみてください。瞑想のワークショップや、思いやりについて学ぶ読書会、思いやりを実践する人の講演会など、さまざまなやり方があります。広報を始める際にはぜひ、当サイトへの掲載もご検討ください(「団体・イベントのご登録」のページを参照)。
より大きな運動を支援します。
  • NPO法人ほうぼく-抱樸:「誰も取り残されない社会をつくりたい。誰もがありのままの状態で受け入れられる社会をつくりたい」という理念のもと、孤立・困窮に対する幅広い支援を行っています。ボランティアとして関わる、SNSなどで活動を広める、サポーターになるなど、さまざまなサポートの仕方があります。
  • 慈悲の憲章|Charter for Compassion(日本語訳あり):世界的な慈悲の運動を支援している団体です。
「共感疲労」に気をつけます

カウンセリングや人道支援などの分野で働く人々は、「共感疲労」に悩まされ、自分自身の健康を損なうことがあります。以下の記事では、共感疲労について詳しく解説し、その対処法についていくつかのヒントを紹介します。

共感疲労とは

共感と同情の違い

  • 共感:他人の気持ちを理解して寄り添うこと。
  • 同情:他人の苦しみを外から見て気遣うこと。
  • 共感は、相手の立場に立つ感情で、エネルギーを多く使うため疲れやすいです。

共感疲労の原因

  • 長時間、他人のつらさや苦しみに触れることで、心のエネルギーが尽きてしまう。
  • 他人の問題を自分のように感じすぎることで、無力感や疲れを感じるようになります。

よくある症状

  • 感情が鈍くなる。
  • 無力感や疲れ。
  • 仕事や人間関係への関心が薄れる。
  • 心身にストレスがたまり、健康を害することも。
共感疲労の対処法

自分の状態に気づく

  • 自分がどれくらい疲れているか、感情やストレスのサインを見逃さないようにします。

セルフケアを大切に

  • 十分な休息や趣味の時間を取る。
  • 食事や運動、リラクゼーションを心がけて、心と体を整える。

助けを求める

  • 同僚や家族、専門家に相談する。
  • サポートグループに参加して、同じような悩みを持つ人とつながる。

境界を設定する

  • 仕事とプライベートの時間を分け、過剰な負担を避ける。
  • 「ここまで」という線引きをすることで、自分を守ることができます。

共感疲労は、他人を助けたいという優しさから生じるものです。でも、自分自身を大切にすることも忘れず、無理せずバランスを取ることが大事です。

それぞれの立場でできること

都市と地域社会
思いやりを都市や地域社会の中心に据えます。

分極化と不平等が拡大している現代では、地域規模で思いやりを育むことが非常に重要です。思いやりを都市やコミュニティの指針とすることで、都市やコミュニティの回復力と、集団全体の幸福を高めることができます。

難民への思いやりを深める方法(英語)

共感の変化

  • 難民に対する共感は、状況や人数によって変わる。
  • 多くの人が苦しんでいると、共感が薄れやすくなる(「共感の減退」)。

共感を深めるために

  • 感情だけに頼らず、自分の大事にしている価値観に基づいて行動することが大切。
  • 他人の苦しみを自分の経験と結びつけると、共感が深まりやすい。

支援の仕方

  • 難民支援では、自分が得意なことやできることを活かして行動する。
  • みんなで力を合わせて、長く続けられる支援を目指すことが大事。

行動を起こすために

  • 難民問題について知り、現実的な視点を持つことが必要。
  • 一人ひとりの難民のストーリーに耳を傾けることで、共感しやすくなる。
研究者
思いやりの科学的理解に貢献し、それをより広めます。

思いやりや、それを科学のさまざまな分野で育てる方法への関心が高まっています。思いやりはまだ新しいテーマで、発見したり、理解したり、広めたりするべきことは、科学の枠を超えてたくさんあります。

国際保健タスクフォースが注力する「思いやりと倫理」の分野と連携し、思いやりに関する研究の不足を補う取り組みを進めます。特に、思いやりの疫学的理解(思いやりがどのように広がり、人々の行動や健康にどのような影響を与えるかの科学的知見)を深めることが課題です。

企業
職場で思いやりを育みます。

思いやりのあるアプローチは、従業員のリーダーへの信頼を高め、離職率を下げ、集団の幸福を高める高い可能性を持っています。これは、ビジネスにも有利に働きます

  • 職場で思いやりを育む方法を取り入れます。Global Compassion Coalitionは、職場で思いやりを深めるためのアドバイスを提供している団体で、職場の文化をより協力的で温かいものに変えるヒントを得ることができます。Awakening Compassion at Workというリソースでは、実践的なガイドや具体的な方法を通じて、職場での人間関係や働く環境を改善する詳しいアプローチを紹介しています。これらを活用することで、思いやりに満ちた働きやすい職場づくりを目指せます。
  • スタッフに、思いやりのあるリーダーシップの技術を養う機会を提供します。
ビジネスを、より思いやりのある社会と経済を創り出す力として活用します。

政治・法律 Governance

思いやりを政策立案の指針とします。

思いやりとやさしさは、非合理的で感傷的だとされ、政策立案の場では無視されがちです。しかしこれらは、あらゆる政策の議論や決定において必要とされるべき原動力です意思決定において取引ではなく関わり合いを重要視し、より大きな思いやりが育まれるようにします。

思いやりの分野で活動する組織や専門家、キャンペーンと連携し支援します。

彼らの豊富なリソースや専門知識を活用することで、世界的な思いやりの運動を広げ、政策立案をより効果的で強力なものにできます。

  • Global Compassion Coalitionなどの組織の専門知識を活用します。この中には、政策立案者向けに思いやりを重視した政策作りを支援する「Compassion Guide」や、政治における思いやりを実践的に学べる「Compassion in Politics」のリーダーシップトレーニングが含まれています。これらのリソースは、政策立案者が思いやりを基盤としたリーダーシップを発揮し、効果的な政策を形成するための実践的な知識とスキルを提供します。
  • 内なる開発目標」のような取り組みに参加し、国家政策に人間の資質やスキルの育成を組み入れます。この取り組みでは、思いやりや共感といった人間的な資質を再生可能な形で育てることを重視しています。これらの資質は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速するために必要な協力的な人間関係を促進します。
  • 思いやりのあるリーダーシップセンターと協力し、2020年代を「思いやりの10年」にするための取り組みを支援します。このセンターは、政府機関と連携し、トレーニングやワークショップ、コラボレーションを通じて思いやりのあるリーダーシップを育成しています。
  • 公職者の精神的健康の向上に取り組んでいる組織や個人とつながり、支援を求めます。

Written by Megumi Ogawa / based on “Compassion

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