執筆協力|小林 悠
気候危機への取り組みにおいて、子どもたちへの教育は極めて重要です。環境教育は、持続可能なライフスタイルを選択する主体性を育み、地球上の生命を守る力となります。世界の若者の83%が「人類は地球を大切にできていない」と感じていますが、環境教育は長らく主流の教育で軽視されてきました。個人向けの学習リソースは多いものの、教育者向けには、年齢や教科に適した体系的な教材が求められています。
※ 茶色は海外サイトへのリンクです。
知っておきたいこと
環境教育とは?
環境教育(Environmental Education)とは、地球における自然の営みや生命の歴史に対して、体験や身体感覚をともなう深い理解と環境問題への包括的な理解を深め、人間を含む生態系の持続可能性に必要な体験・感覚や感性・知識・スキル・態度を育むためにあります。
人間の活動が地球の地質年代に大きく影響を与えている中で生きる子どもたちにとって、環境教育は、私たちをとりまく自然を大切なものとして守る力を身につけ、気候変動への適応力を養い、地球上の生態系が複雑かつ得難いものであるという基本原理を理解する手助けであり、彼らをエンパワーする重要な手段となります。
具体的な内容
- 地球上の生命の歴史を知る
- 気候変動について科学的裏付けのある正しい知識を育む
- 生態系の仕組みを体験・身体感覚をもって理解する
- 私たちをとりまく自然環境が精巧なバランスで成り立っていることを知り、それを大切にする心を育む
- 自然の中で行う体験や身体感覚をともなう学習
- 野外フィールドでの実践的・探究的な授業
環境教育のメリット
環境教育は、どの世代にも必要です。環境への知識だけでなく、人として大切な力も育みます。
子どもたちの心身の健康
外で過ごす時間が増えると、子どもの不安やうつ、怒りは減り、注意力や心身の健康が向上します。
また、気候変動教育に社会的・情意的学習(SEL:Social and Emotional Learning)を取り入れることで、非認知能力を育み、子どもたちの心の健康や幸福感を高めます。
公平性と包摂性の促進
日常的に持続可能な行動を実践する人をお手本にすることで、家庭で生ごみの分別や省エネを経験していない子どもも、そこから学ぶことができます。
自然とのつながり
屋内では動植物の世話をすることで自然への敬意や共感が育ち、屋外では自然の中で遊ぶこと、鳥や虫の営みに触れること、落ち葉や石を使った遊びが五感を刺激します。
世代間ギャップの解消
技術革新の急速な進展により、先人が大切にしてきた世界が次の世代に受け継がれず失われてしまう現象を「世代間健忘症(generational amnesia)」と呼びます。環境教育は、自然とのつながりや、人も自然の一部であるという感覚を取り戻す手助けとなります。
市民意識の醸成
環境への知識と手段を身につけることで、やがて主体的な市民として、地域や国・国際社会で政策提言や社会変革を担い、活躍できるようになります。
地域社会への波及効果
成長段階に合わせた環境教育は、自然の恵みや人間の活動が環境に与える影響についての理解を、家庭や地域全体に広げる大切な基盤となります。
教師・学校の直面する課題
1975年、ユネスコのベオグラード憲章は、環境危機への一時しのぎの対応を避けるために、環境教育が重要であると示しました。しかし現在の教育システムは、若者が気候危機に立ち向かうための準備を十分に整えられていません。
- ユネスコが2021年に100カ国を調査したところ、国のカリキュラムの47%が気候変動関連の取り組みにまったく触れておらず、気候変動について自信を持って教えられると答えた教師は40%未満でした。
- ほとんどの学校では、中学・高校の理科の授業以外では気候や環境に関する指導は求められていません。
- 環境教育を授業に取り入れるための適切な指導枠組みや教材は不足しており、何を選びどうカリキュラムに組み込むかは教師に委ねられています。このことは教員の負担を増やすだけでなく、効果的な環境教育を難しくしています。
日本における環境教育の変遷
環境教育の黎明期〜導入期
戦後の高度経済成長期には、公害教育や自然保護教育が盛んに行われていました。1970年代になると、国外から環境教育(Environmental Education)の概念が日本にも取り入れられます。
環境教育の定着期〜現在
1980年代には「持続可能な開発」という言葉が広まり、日本でも環境教育がブームとなりました。環境問題はより包括的に捉えられるようになり、やがてESD(持続可能な開発のための教育;Education for Sustainable Development)へと展開していきます。
私たちは子どもたちの声を聞いているか?
1992年、当時12歳のセヴァン・スズキさんは地球環境サミットで、大人たちに向けてこう訴えました。
「直し方を知らないなら、これ以上壊さないでください。」
そして2019年、16歳のグレタ・トゥーンベリさんは国連気候行動サミットで「未来の世代の目はあなたたちに注がれています。もし私たちを失望させる選択をすれば、決して許しません」とスピーチしました。
時代を超えて、多くの若者が懸命に環境・気候危機を訴えてきました。大人たちは、その声に本当に耳を傾けてきたのでしょうか。
気候不安
- 地球温暖化や環境破壊による変化に反応して生じる、感情的・精神的・身体的な苦痛。
- 特に気候変動の影響を強く受ける若者世代に多く見られます。
- 不安を抱える子どもがいれば、耳を傾け、受け止め、どう支えられるかを考えることが必要です。
行動する若者たち
すでに行動を起こしている若者は世界中にいます。Fridays for Futureの広がりや、日本各地での若者の声の高まりがその例です。
- 日本でも若者による気候訴訟が始まっており、海外では政府や企業を相手に訴訟を起こし勝訴する事例も現れています。
- また、署名活動で県立高校135校の電力を再生可能エネルギーに切り替えた高校生や、横浜インターナショナルスクールの「Roots & Shoots」や「ドリームビルダーズ」など、生徒主体で環境問題に取り組む動きが続いています。
行動したくてもできない若者たち
一方で、実際に行動できる人は子どもも大人もごく一部です。行動したい思いを持ちながら踏み出せずに葛藤する若者もいます。そうした生徒に勇気と希望を与えるのは、環境・気候危機を理解する大人の存在、環境教育、そして生徒が主体的に動ける学校環境です。
大人こそが動く
環境教育は重要ですが、未来世代に気候危機の解決を託すのは無責任です。若者に期待する前に、あらゆる立場の大人が本気で気候対策に取り組む必要があります。
もっと知る
ポッドキャスト
環境教育ラジオ「私の本棚」
エメラルドプラクティシズ
書籍
『SDGs時代の保育実践アイディア帳』小西貴士、大豆生田啓友 編著/フレーベル館
『リジェネラティブ・リーダーシップ―「再生と創発」を促し、生命力にあふれる人と組織のDNA』ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ 著/小林泰紘 訳/英治出版
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以下は、環境教育を普及させるための取り組みです。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。
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解決策リスト
大人・教師・インタープリター・保育士だけでなく、家庭や地域社会でも、子どもたちの教育に積極的な役割を果たすことができます。
家庭や地域でできること
自然の中に出かけます。
デバイスや電子機器から離れて、鳥や虫の声、川の流れや波の音、星を見る、裸足で土の上を歩くなど、自然に触れる時間を楽しみましょう。人も自然の一部だと体感できる時間を過ごすことが、環境教育の最初の一歩です。山梨県のキープ協会では、さまざまな野外プログラムを提供しています。
学校に提案します。
環境教育に関する懸念やアイデアを、校長先生やカリキュラム担当の先生に伝えてみましょう。保護者や地域の人が変化をもたらす存在になり得ます。学校の庭の手入れ、自然散策の開催、野生動物保護区の清掃、クラスでのスキル共有など、どんなことが歓迎されるか先生に聞いてみましょう。
子どもたちとともに育て、ともに食べます。
エディブル・エデュケーションの取り組みのように、各教科の学びを庭や台所での学びと組み合わせることで、子どもたちが地球市民として育つ環境をつくることができます。
子どもたちとともに地域をマッピングし、アクションを起こします。
Roots & Shootsの4つのステップなどを参考にして、子どもたちが主体となって学校や地域をよりよくしていくアクションを促し、サポートすることができます。
省エネ・安全な学校環境への改善を提案します。
年々夏が長く過酷になる中、エアコンが設置されていても30℃を上回る学習環境の学校もあります。築年数の古い学校は無断熱であるため、エアコンをつけても効きが悪く、エネルギーの無駄になるうえ、子どもたちの安全が脅かされます。
学校における断熱の重要性を理解した保護者や地域の人が、学校で断熱ワークショップをしたり、自治体に断熱改修を要望する事例が増えてきています。白馬高校の断熱改修事例も参考になります。
リジェネラティブ・リーダーシップについて学びます。
社会的に公正で、環境的に持続可能な社会づくりについて学ぶ「チェンジ・ザ・ドリームシンポジウム」 やゲーム・チェンジャー・インテンシブを受講することで、根本の原因に気づくことができます。
それぞれの立場でできること
マインドフルな時間をつくります。
学校・地域にある自然を活用したり、林間学校など五感を使って自然とつながることができる機会をつくりましょう。こうした経験は、子どもたちの心身の健康を高めることができます。
気候変動の授業を行います。
「各県の地球温暖化防止活動推進委員」を活用するのもおすすめです。地球温暖化対策に関する法律に基づき、普及啓発活動や地域住民への支援・対策の推進を担う専門家や活動をする人たちのネットワークが各県にあります。
また、以下の教材も活用できます。
教師のコミュニティに参加します。
Think the Earth や Educators for Future Japan のように、教師が環境・気候危機に向き合う活動をするコミュニティに参加することで、情報交換を行えるようになります。
探究学習を取り入れます。
エディブル・エデュケーションやRoots & Shoots の4つのステップを取り入れてみるのはよい選択肢です。渋谷区では探究学習の取り組み「シブヤ未来科」を実施し、積極的に環境教育に取り組む学校もあります。
環境教育の研修・養成講座に参加します。
- 日本環境教育フォーラム:教員のための環境教育講習
- 株式会社 ぐうたLabo:保育者のためのエコカレッジぐうたら村
- 国立青少年教育振興機構:自然体験活動指導者育成
- 日本シェアリングネイチャー協会:ネイチャーゲームリーダー
- 環境省:環境カウンセラー
校内研修のテーマを環境教育にします。
Think the Earth のように、環境問題をはじめとした課題を基礎から学ぶ講座・ワークショップ・研修会を提供する機関もあります。保育園・幼稚園では、保育者のためのエコカレッジぐうたら村の研修も参考になります。
学校間交流を通してESDに取り組みます。
ユネスコスクールに加盟して、地球規模の諸問題に若者が対処できるような新しい教育内容や手法の開発に学校全体で取り組みましょう。国内外の学校間交流・連携もできます。
パワーシフトをします。
浜松開誠館中学校・高等学校は、生徒たちの要望を受け「再エネ100宣言 RE Action」に参加し、一部の使用電力を再生可能エネルギーに切り替えました。自由の森学園は、パワーシフトをし、さらにエネルギー教育プログラムへと展開を広げています。またその電力に切り替え、家庭で使用することもできます。くわしくはこちら。
CO₂排出量を減らし、環境学習につながる学校にします。
断熱による省エネルギーや、太陽光・太陽熱利用による創エネルギー、雨水の貯留、緑化などを取り入れた学校は「エコスクール」と呼ばれ、文部科学省もその整備を推進しています。こうした学校は、CO₂排出量を削減するだけでなく、子どもたちや地域の環境・エネルギー教育の拠点となり、災害に強い公共施設としての役割も果たします。
園庭・校庭をリジェネラティブにします。
月刊誌『保育ナビ』(フレーベル館)では、エコロジカルな園庭づくりについての連載が掲載されています。
教員養成課程に環境教育を取り入れます。
ゲスト講師を招いたり、ワークショップを開催したりして、環境に関するカリキュラム・枠組み・授業内容を教育学部の学生に紹介しましょう。
パワーシフトをします。
千葉商科大学と長野県立大学は、再生可能エネルギー100%を達成し「再エネ100宣言 RE Action」にも加盟しています。大学は小・中・高等学校に比べて規模が大きく、その分CO₂排出量も多いため、パワーシフトは非常に重要な役割を果たします。
ダイベストメントをします。
2010年頃から、学生たちが大学の化石燃料企業への投資を知り、投資撤退を求める運動をしたことでダイベストメント運動[注]が広がりました。関西大学教職員組合社会学部支部は、化石燃料企業に融資をするメガバンクをダイベストメントしています。
子ども・学生向け講座
- Roots & Shoots キックスタートコース(小学5年生〜大学生)
- 岐阜県立森林文化アカデミー 森林総合教育センターmorinos
中学生以上・大人向け講座
環境教育の養成講座
- Roots & Shoots コーディネーター講座
- ネイチャーゲームリーダー養成講座(日本シェアリングネイチャー協会)
- 日本環境教育フォーラム JEEF
- 公益財団法人KEEP協会環境事業部:地球のすべての存在との間に立って理解を深めるインタープリターの育成などを行っています。
ツールキット
社員がリジェネラティブ・環境・気候変動について学ぶ機会をつくります。
社員一人ひとりがリジェネラティブな視点を持つことは、企業文化の変革につながります。以下のプログラムは、社員研修や自己学習に活用できます。
- Earth Company「Regenerative Futures Camp」:「人と自然が共繁栄するリジェネラティブなあり方」を考えるオンライン研修。個人向けと企業向け(IMPACT ACADEMY)の2種類があり、リジェネラティブとは何か、ビジネスでどう実践するかを実践者から直接学べる。参加者満足度100%(90名以上が受講)。
- Think the Earth「SDGs for School」企業・自治体向け研修:SDGsをモノサシに自社のリスクとチャンスを整理し、新たなビジョン構築やイノベーションのアイデアソンまでをカバーする研修プログラム。企業・自治体向けにカスタマイズ可能。
- クライメートリアリティプロジェクト(CRP)企業向けプログラム:気候変動の最新科学と解決策を学ぶ研修。企業・組織向けのワークショップも提供。
- チェンジ・ザ・ドリームシンポジウム:社会的・環境的に公正で持続可能な社会のあり方を学ぶ体験型プログラム。社員研修として導入する企業も増えている。
社員が自然の中で学ぶ機会をつくります。
座学だけでなく、自然体験をともなう研修は、社員のウェルビーイング向上と環境への感受性を育てる効果があります。
- 公益財団法人KEEP協会環境事業部(山梨県清里):企業研修・チームビルディングと自然体験を組み合わせたプログラムを提供。八ヶ岳の自然の中で、環境教育とリーダーシップを同時に育める。
- 岐阜県立森林文化アカデミー 森林総合教育センターmorinos:森の中での体験型学習プログラム。企業の越境学習・自然体験研修としても活用できる。
社内で環境・気候変動の学びの文化をつくりましょう。
- 環境に関心のある社員のコミュニティ(社内サークル・勉強会)の立ち上げを支援する。
- Educators for Future Japanなど、教師・企業人が混在するコミュニティへの参加を社員に奨励する。
- このページをはじめ、regeneration-japan.comのコンテンツを社内勉強会の教材として活用する。
based on Environmental Education
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