ポリネーターとは、鳥、コウモリ、ハチ、蝶、甲虫などの動物のことで、植物から植物へと移動して花粉を運びます。これは、花々や生態系のためだけでなく、実は私たち人間を含む多くの生き物が食べ物を得るためにも欠かせないプロセスです。ここでは、絶滅の危機に瀕しているたくさんのポリネーターを守るために、必要な戦略を見ていきます。
知っておきたいこと
数字で知る
- ポリネーターは、世界中に約350,000種います。
- 花々の80%以上が、ポリネーターの働きを必要としています
- ポリネーターは世界の食用作物の3/4以上に関わっており、毎年2,300 億ドルから 5,770 億ドル相当の食糧生産と、それに伴う14億人の雇用に貢献しています。
- ポリネーターは、無脊椎動物で40%の種が、脊椎動物で16.5%の種が、絶滅の危機に瀕しています。
- 昆虫の危機は特に深刻で、北米在来のミツバチは4種に1種が絶滅しかけています。
- たとえばオオカバマダラは、過去20年間で95%減少しました(詳しくは「昆虫」のページを参照)
ポリネーターはなぜ絶滅の危機にさらされているの?
生息地の喪失
農地の拡大、都市化、森林伐採などにより、ポリネーターの生息域が破壊され、巣を作る場所や食料が減少しています。
- 農地の拡大
大規模な農地開発により、自然の多様な生息地が単一作物の畑に変わり、ポリネーターが必要とする多様な植物が減少しています。 - 都市化
都市の拡大によって自然の生息地が減少し、ポリネーターの居場所が失われています。また、都市化は都市に隣接する地域のポリネーターも脅かします。気温上昇の激しい都市に囲まれることで、ポリネーターは狭い緑地に閉じ込められてしまい、本来の生息域を行き来できなくなるからです。
農薬の使用
広範囲に散布される農薬や除草剤も、ポリネーターの個体数の減少や健康状態の悪化に関わっています。
- ネオニコチノイド系農薬
ポリネーターの神経系に悪影響を与え、方向感覚を失わせたり、死に至らせたりすることがあります。 - その他の化学薬品
ある種の殺虫剤が、蜂群崩壊症候群等の病気の一因となっている可能性があります。蜂群崩壊症候群はミツバチのコロニーにとって最も重大な脅威の 1 つで、地域によっては、年間46%もの急速な速度で、原因不明の死滅を引き起こしています。
気候変動
- 気温の変化
異常気象や気温の上昇により、ポリネーターの活動時期が変わることで、植物の開花時期とポリネーターの活動時期が一致しなくなり、受粉が困難になることがあります。すると、受粉によって生る実を結ぶ植物の実が生りにくくなり、たとえばモモやリンゴ、イチゴなどの収量が減ります。 - 降水パターンの変化
降水量や季節の変化がポリネーターの食料源や生息地に影響を与えることがあります。
病気と寄生虫
病気や寄生虫によってもポリネーターの健康状態が悪化し、蜂群崩壊症候群を起こすことがあります。
- バロアダニ
特にミツバチに寄生することで、個体数を大幅に減少させます。 - その他の病原体
ウイルスや細菌感染もポリネーターの健康を脅かします。
外来種の侵入
- 新しい捕食者や競争相手
外来種がポリネーターの生息地に侵入し、食料や生息空間を奪います。 - 交配の混乱
外来植物が在来植物と交配することで、在来植物の遺伝的純粋性が失われることがあります。これにより、在来植物が持つ特定の花の構造や香りが変わり、ポリネーターがうまく適応できないことがあります。 - 病気の伝播
外来種が新しい病原体を持ち込み、在来ポリネーターに感染させることがあります。たとえばセイヨウミツバチとともに持ち込まれたアカリンダニは、日本ミツバチに甚大な被害をもたらしています。 - 単一栽培の増加
現代の農業では大規模農業で単一作物を栽培することが一般的になっていますが、これによりポリネーターが必要とする多様な食物資源が不足し、栄養バランスが崩れます。 - 遺伝的多様性の低下
ポリネーターの個体群が減少すると、遺伝的多様性が低下し、環境変化や病気に対する耐性が弱まります。
ポリネーターが減るとなにが起こるの?
農業生産量の減少
- 作物の受粉不足
多くの農作物は、ポリネーターによる受粉に依存しています。ポリネーターが減少すると、これらの作物の受粉が不十分になり、収穫量が減少します。 - 経済的損失
農作物の減少は、農業従事者や関連産業に経済的な打撃を与えます。受粉依存作物の市場価値が高い地域では、特に深刻な影響を受ける可能性があります。
食料供給の不安定化
- 食料の多様性の減少
受粉を必要とする作物の減少により、食卓に並ぶ食材の多様性が減り、栄養バランスが偏る可能性があります。 - 価格の上昇
作物の収穫量が減少すると、需要と供給のバランスが崩れ、食料価格が上昇する可能性があります。
生態系のバランスの崩壊
- 植物の減少
多くの植物種がポリネーターによる受粉に依存しています。ポリネーターが減少すると、これらの植物の繁殖が困難になり、個体数が減少する可能性があります。 - 動物への影響
植物の減少は、それを食物とする動物にも影響を与えます。食物連鎖全体に影響が広がり、生態系のバランスが崩れることがあります。
生物多様性の喪失
- 種の絶滅リスク
受粉を必要とする植物が減少すると、それに依存する動物や昆虫も生息地や食料を失い、絶滅のリスクが高まります。 - 遺伝的多様性の低下
受粉が不十分になると、植物の遺伝的多様性が減少し、環境変化や病気への耐性が弱まる可能性があります。
文化および社会への影響
- 雇用の喪失
農業を中心に、多くの人が雇用を失います。 - 伝統的農業や文化の衰退
ポリネーターの減少により、伝統的な農業や園芸活動が困難になり、地域の食文化や伝統が失われることがあります。また、一部の染料などが得にくくなることにより、工芸や民芸にも打撃を与えます。
どうすればポリネーターを助けられるの?
生息地を守る
- 庭やベランダに植物を植える
花やハーブ、野菜などのポリネーターが好む植物を植えることで、食料源を提供します。このときに在来植物を選ぶと、一層地域のポリネーターのためになります。 - 水源を提供する
鳥や昆虫が水を飲むための小さな水場を設置します。 - コミュニティガーデンをつくる
地域住民が共同で植物を育てるコミュニティガーデンをつくります。 - バタフライガーデンをつくる
バタフライガーデンは、蝶を呼ぶ目的で植物を植えた庭で、厳密な決まりはないので、誰でも簡単に作ることができます。一般的なバタフライガーデンでは主に、ソバ、ナタネ、シロツメクサ、レンゲなど、蝶が好んで蜜を吸いに訪れる「蜜源植物」と呼ばれる植物を使います。
それ以外にも、たとえば日本の国蝶でもあるオオムラサキは、幼虫時代はエノキしか食べないため、固有の食草であるエノキを植えることによって保護できます。このように、特定の種類の食草を庭に植えることにより、種の多様性を保持することが可能になります。 - 緑地の保護・拡大する
公園や自然保護区、緑地を保護し、本来その地に生息している植物を守ります(詳しくは「街に自然を」のページを参照)。 - ポリネーターの生息地をつなぎ合わせる
ポリネーターの移動を助けるために、生息地を連結する緑の回廊を設けます(詳しくは「水と緑の回廊」のページを参照)。
環境再生的な土地管理手法を取り入れる
- 環境再生型農業を実践する
自然栽培、自然農、有機農業など、農薬や除草剤を使用せずに作物を育てることで、生態系や人の健康に寄与することができます(詳しくは「環境再生型農業」のページを参照)。
農薬の使用を減らす
- 農薬の使用を控える
個人の庭園やベランダでも、農地でも、農薬の使用を避け、有機的な方法で害虫を管理します。 - 農薬規制を強化する
有害な農薬の使用を規制し、安全な代替品を推奨します。
生態系の多様性を保つ
生態系の多様性を保つために、地域にもともと生息していた多様な種類の植物を植え、ポリネーターの食物源を多様化します。
ポリネーターのことをよく知る
- 教育プログラムを実施する
学校や地域の団体が、ポリネーターの重要性と保護方法について教育プログラムを提供します。 - 市民科学プロジェクトを行う
地域住民がポリネーターの観察やデータ収集に参加する市民科学プロジェクトを通じて、ポリネーターの健康状態を監視します。 - CSR(企業の社会的責任)活動
企業がポリネーター保護プロジェクトを支援し、従業員や顧客に対して教育キャンペーンを実施します。
もっと知る
日本語サイト
グリーンピース:ミツバチと食の危機 世界のネオニコチノイド系農薬規制から見える日本の課題
あなたの知識、シェアしてください!
以下は、世界各地で行われているポリネーターのための取り組みです(詳しくはグローバル版をご覧ください)。似たような日本の事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄かこちらのメッセージフォームに投稿お願いします!
※ 特に参考になる書き込みは、後ほどコンテンツ内に反映させていただくことがあります。あらかじめご承知おきください。
解決策リスト
「私」にできること
ポリネーターの重要性と、彼らが置かれている状況を学びます。
- ポリネーターは生態系を健全に保つ鍵です。多様で健全な植物が育つために重要で、炭素の隔離と貯蔵、水や空気や土壌の濾過と調整、土壌浸食の防止、害虫や病原体の制御のような、生態系の働きを助けます。
- ポリネーターは食料システムを支えています。
- 薬用植物にも関わっており、人間の健康にとって非常に重要です。
- 文化的にも重要です。染料など、さまざまな慣習の基盤を支える植物にも関わっています。
- ポリネーターは絶滅の危機に瀕しています。
ポリネーターにやさしい商品を選びます。
売上の一部を蜜源植物を増やすために使ったり、若手養蜂家の支援や地域貢献を行ったりと、ポリネーターの保護のために幅広く活動しています。
あなたが住んでいる場所のポリネーターを支援します。
ポリネーターには、食料、水、住処が必要です。支援する方法はたくさんあります。
- 家の周りに化学物質を使用しないエリアを作ります。
- ポリネーターを引き付ける植物を植えて、彼らに優しい庭園を作ります。
在来種を活かした庭造りを行っています(2024年11月現在、新規のデザイン・施行は受け付けていません)。
- 指定エリアをつくり、野生に還します(再野生化)。
- 鳥やその他のポリネーターのために、一年中食べられる食料と水源を作ります。食べ物が不足する冬の間は、特に喜ばれます。
- 鳥の巣作りや餌の確保を助けるために、鳥のための庭づくりの方法を学びます。餌箱や鳥の水浴び場を設置すると、鳥にとってより優しい環境を作り出すことができます。
- こちらの記事などを参考に、「バグホテル」を立ててみます。
- オーガニックの食品、繊維、ボディケア製品を購入します。環境再生型農業を実践している農場や牧場を支援します(詳しくは「環境再生型農業」のページを参照)
- 学校のカリキュラムで、校庭にポリネーターの生息地をつくるプロジェクトを行います。
- その他のアイデアについては、「昆虫」のページを参照してください。
花粉媒介者の健康を守る団体や企業を支援します。
それぞれの立場でできること
ポリネーターのためのスペースを作ります。
都市計画者や公園・レクリエーション部門は、ポリネーターに優しい生息地を作るために貢献できます。
- 高速道路やその他の公道沿いの道端、路肩、ポリネーターのための通行権を管理します。
- ニュージーランドのハミルトン市は、ウェブサイトで地元のコウモリの個体数に関する情報を掲載し 、コウモリの生息地を保護するためのリソースを提供し、地域社会にコウモリ探知機を無料で貸し出しています。
- アムステルダムでは、芝生を在来の花の咲く植物に置き換え、公共の場での化学除草剤の使用を中止し、ミツバチホテルを設置したことにより、単独生活を送るミツバチの種が45%増加しました。
- ベルリンは、市内の50以上の庭園を支援するために150万ユーロを確保しました。
政策立案者への提案
- 明確な取り組みの確立:ポリネーターが住む場所を守り、元に戻すための政策を地域レベルで整え、国際的な宣言やヨーロッパの政策を地域の目標や計画に反映させます。
- ポリネーターに優しい都市のビジョンと計画の作成:関係者全員を巻き込み、地域のポリネーター専用の戦略や計画を作ることで、意識を高め、支援を集め、地域の知識を活用し、心配事を解消します。
- 具体的な行動の設定:都市計画や各分野の政策にポリネーターについての課題を組み込み、土地利用やインフラ、住宅、自然保護、土地管理に関する政策や手段を見直し、ポリネーターを支援する手続きや関与を広げます。
- 他の分野との協力促進:大きな土地の持ち主、開発業者、使われていない土地の管理者、施設や公共サービスの管理者、交通事業者、農家、学校、地元の NGO、コミュニティグループなどと連携し、ポリネーターの保護に一緒に取り組みます。
実務者への提案
- 既存のポリネーター生息地の保護:公共や私有の庭、教会の庭、湖や湿地、建物の周り、道路、鉄道、水路の縁など、ポリネーターにとって価値の高い景観を見つけ、保護策を定めます。自然のままを保ち、自生植物を育てることが効果的な方法になります。
- ポリネーターの住む場所の回復、創出、接続:送粉者の住む場所やネットワークを地図にし、都市部での送粉者の移動や生息を促すための通り道やつながりを設計します。
- ポリネーターに優しい管理方法の採用:緑地の管理において、農薬の使用を最小限にし、在来植物を植え、草刈りの頻度を減らすなど、ポリネーターに配慮した方法を取り入れます。
ポリネーターの生息地を保護し、緑の回廊を建設します。
土地所有者と農業従事者は、ポリネーターの生息地の喪失に対処する上で特別な立場にあります。さまざまな環境再生型の慣行を実施することは、ポリネーターをサポートするだけでなく、土壌の健全性と作物の収穫量も向上させます。
- 農薬の使用を減らすか、なくしてください。輪作や耐性のある作物の栽培は、農薬の必要性を減らすことができます。ネオニコチノイドなどの有害な農薬の使用を避け、有機栽培にすることは、ポリネーターの生存と、農家の収益につながります。
- 総合的害虫管理 (IPM)を活用します。このアプローチでは、害虫の原因をターゲットにすることで、農薬散布を防止および削減できます。
- IPMとは:IPMは、生態系に基づいたアプローチで、植物、害虫、気象の監視を通じて、害虫やその被害を長期的に予防する手法です。
- 文化的防除:耕作、芝刈り、道具の消毒、早期収穫などの手法で、害虫の生息、繁殖、拡散、生存を減少させます。
- 機械的・物理的防除:粘着トラップの使用や、土壌の蒸気消毒、高トンネルの設置などで、害虫を直接駆除したり、侵入を防いだりします。
- 生物的防除:テントウムシやハチなどの捕食者や寄生虫、特定の害虫を攻撃する病原体(細菌、真菌、ウイルス)を利用します。
- 化学的防除:必要に応じて、他の手法と組み合わせて農薬を使用します。最も毒性の低い選択肢から始め、害虫の数が閾値を超えた場合にのみ使用します。
- 害虫および環境の監視:定期的な観察と記録を行い、害虫の発生を早期に検出し、適切な対策を講じます。
- 経済的閾値の設定:害虫の被害が経済的損失を引き起こすレベルを定め、その閾値を超えた場合に防除措置を実施します。
- 予防的措置:抵抗性のある植物品種の選択や、作物の衛生管理などで、害虫の発生を未然に防ぎます。
- 評価と調整:実施した防除策の効果を評価し、必要に応じて戦略を修正します。
- 作物を多様化します。環境再生型農業は生物多様性を高めることができます。(「環境再生型農業」のページを参照)。
- 畑の端や隅を最大限に活用して、野生の花が永久に咲くエリアを作ります。花を植えたり、可能な場所では土を耕さずに残したり、ミツバチの巣を用意したりすることが、ポリネーターのためになる農業の方法です。
- 畑の間に生垣を作ります。これはポリネーターを支援する最良の方法の 1 つです。
- 森林農法と森林生態学の技術を活用します。 樹木と低木を合わせると、鳥類やその他のポリネーターを増やし、表土を保護して作物と家畜の生産性を高めるのに役立ちます(詳しくは「森林農法」、「林間放牧」、「農業生態学」のページを参照)。
- あまり手を加えないようにします。自然と野生に還るエリアを残したり、ポリネーターの餌や巣作りに必要な花が咲かない秋や冬まで草刈りを延期したりすることも、ポリネーターの健康をサポートするよい方法です。
ポリネーターに優しいサプライチェーンを確保します。
- ポリネーターと土地利用にとってもっともよい管理方法を組み合わせ、ポリネーターに優しい方法で材料を調達することで、環境認証を受けたような製品を使用する農家やサプライヤーをサポートできます。
ポリネーターのための監査やコンサルティングのサービスに投資します。
生息地の計画策定、供給の変化に関する調査、ポリネーターのための施設の持続可能性を専門的に調べる組織や個人と協力します。
- スミソニアン博物館は、コーヒーとココアの製品に「バード・フレンドリー」マークを付け、有害な農薬を禁止する有機基準と、鳥類を保護するために多様な在来樹木や低木を取り入れることを義務付けています。
政治・法律 Governance
ポリネーターの健康と回復を助ける法律を推進します。
- ポリネーターの生息地を保全し、野生に返す政策
- 環境変化に弱い種を保護する政策
- 農薬の使用削減をする政策
- EUの植物保護に関する法律には、ミツバチに影響する活性物質 (農薬に使用される化学物質または微生物) の使用に関する明確な基準があります。200を超える組織と120 万人のヨーロッパ市民が、農薬を削減するためのさらに強力な法律を提唱しています。
教育と啓発キャンペーンを支援します。
- 政府は、花粉媒介者に優しい行動を促進するために、全国的な啓発キャンペーンや、基金や補助金を創設することができます。
- オーストラリア花粉媒介者週間は、あらゆる規模の行政で参考にできます。写真コンテスト、教育ワークショップなど、ポリネーター関連のイベントを開催する週や日を設けます。
参考:Pollinators
この記事へのコメントはありません。