都市計画に自然を取り入れることで、涼しくて洪水に強く、健康的で文化的な環境を、貧富を問わず手に入れられるようになります。
※ 茶色は海外サイトへのリンクです。
知っておきたいこと
数字で知る
- 2030年までに、世界人口の60%が都市部に暮らすようになると予測されています。
- 都市は、世界の天然資源の75%を消費し、70%以上のCO2を排出量しています。
- 世界中の樹々は、毎年、都市から出る排気ガスなどの化石燃料排出物を40%近く吸収し、空気を綺麗にしています。
- 世界の25都市の調査で、都市部のヒートアイランド現象と所得分布の関係を見たところ、貧しい地域が暑さにさらされるやすくなっているケースが72%に上りました。特に、周囲の緑の多さは暑さに大きく影響しており、貧しい地域に緑地を増やすことは、経済的に不利な立場にある人たちを熱波から守る有効な対策になることがわかりました。
- カナダ国立研究評議会によると、屋上を緑化することで建物の空調使用量を最大75% 削減できると推定されています。
- 20mm以上の雨が降ったとき、木の下では時間当たりの降雨量が1/3から半分以上減少するという調査結果があります。
自然は街に何をもたらしてくれるの?
街中の緑は、私たちにたくさんの恩恵をもたらしてくれます。逆に、緑がなくなると以下のような自然の力も失われてしまいます。
涼しい環境
緑の多い公園や街路樹の木陰は、地球温暖化による厳しい暑さから私たちを守ってくれます。特に、ヒートアイランド現象に悩まされる都心部では、緑地から流れる冷たい空気や、屋上緑化による断熱効果が、気温の上昇を和らげることがわかっています。
きれいな空気と水
排気ガスやマイクロプラスチック、水中の汚染物質など、木々は空気中や水中のさまざまな物質を吸着してくれます。
洪水への対応力
過去には10年に1回しか発生しなかったレベルの激しい暴風雨は、現在では30%高い確率で発生するようになっています。また、地上の平均気温が高くなっている都市部では、積乱雲の急激な発生による突発的な豪雨が生じやすくなります。
都市の緑は、街全体を冷やすことで豪雨の発生を減らし、雨の勢いをやわらげ、雨水を吸収して洪水や土砂崩れの危険性を軽減します。
生物多様性
公園や庭、空き地、建物の屋根などに草木を植えると、そこで独自の生態系が生まれ、周辺の自然に暮らすさまざまな生き物の通り道としても役立ちます。人工的に見える街路樹ですら、その周りに在来種を中心とする150種以上の植物が育っていたという報告もあります。
また、鳥は都市によく適応することが知られており、世界の鳥類のうち約20%もの種が都市部に生息しています。都市の自然は、年々失われていく生物多様性を守る上でも重要な役割を果たします。
健康的な環境
自然豊かな街は、空気がきれいで肺にやさしく、散歩向きの環境は肥満やそれに伴う病気のリスクを下げてくれます。緑に囲まれると精神的なストレスもやわらぎ、免疫のバランスも整いやすくなります。
また、都市農園があれば、地域の人たちは栄養豊富で新鮮な野菜や果物を、手頃な価格で手に入れやすくなります。(「都市農業」、「ローカル化」のページを参照)
経済的な豊かさ
街の緑が豊かだと景観がよくなり、観光業が活性化します。また、豪雨による被害や大気汚染などの対策に割くコストを大幅に削減できます。
教育的な豊かさ
過去の研究では、自然は認知能力や学業成績の向上と関連し、発達障害の影響をやわらげる効果があると報告されています。自然の中で遊ぶことは、子どもの創造力や問題解決能力、知的好奇心を育む上で不可欠です。
街中の自然を増やすにはどうしたらいいの?
自宅に緑を取り入れる
- 家庭菜園
庭やバルコニーで野菜やハーブを育てます。 - 花壇の設置
花や低木を植え、身近な場所に自然を取り入れます。 - グリーンウォール
自宅の壁に植物を垂直に植えて緑の空間を作ります。
コミュニティガーデンを育てる
地域のコミュニティガーデンに参加したり、空き地を利用して新しいコミュニティガーデンを作ったりして、地域の人々と共同で野菜や花を育てます。地域住民が自ら庭園を管理・運営することは、コミュニティの絆を深めることにもつながります。
公共空間を緑化する
- 屋上緑化
ビルやマンションの屋上を緑化します。 - 壁面緑化
ビルの壁面に植物を植え、都市の美観を向上させるとともに、空気の質を改善します。 - 街路樹の植樹活動
自治体や環境団体と協力して、街路樹を植えるイベントに参加します。 - 公園の緑化支援
地元の公園でボランティア活動に参加し、植樹や清掃活動を行います。

環境への知識を深める
- アウトドア活動
自然公園や緑地でのハイキングやピクニックなど、自然とのふれあいを楽しむ活動を通じて、自然への関心と理解を高めます。 - 地域の自然観察会
地元の自然観察会に参加し、都市の自然の魅力を再発見します。 - 学校での環境活動支援
子どもたちが自然に親しむ機会を作るために、学校の環境教育プログラムをサポートします。 - 地域イベントの開催
緑化や環境保護に関するワークショップやセミナーを開催し、地域住民と環境意識を高め合います。
SNSでの発信
SNSを通じて、都市緑化の重要性や実際の取り組みを発信し、多くの人に関心を持ってもらいます。また、環境保護に関心のある人々や団体とつながり、情報交換や協力を進めます。
政策提言とアドボカシー
- 自治体へ働きかける
新築や建替え時の緑化基準を設けるなど、都市緑化や自然保護につながる政策やプロジェクトを、地元自治体に提案します。 - 署名運動
都市緑化に関する政策変更を求める署名運動を行います。
グリーンインフラを導入する
以下のような取り組みは、企業や土地所有者、自治体の参考になります。
- 雨水の管理
緑地や透水性の鋪道、雨水庭園などを設け、雨水を効果的に管理しながら都市の緑を増やします。 - 緑の回廊の整備
都市内外の自然豊かなエリアを結ぶ緑の回廊を整備し、生物多様性を保護します。 - 在来種の植栽
都市緑化の際に在来植物を優先的に植えます。 - ポリネーターガーデン
ミツバチや蝶などのポリネーターのための植物を植え、都市環境の生態系サービスを維持します(詳しくは「花粉媒介者(ポリネーター)」のページを参照)
もっと知る
読む
横浜国立大学:宮脇昭名誉教授の遺した「森」という研究資源
あなたの知識、シェアしてください!
以下は、都市の緑化を推進するための世界各地の取り組みです。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。
※ 特に参考になる書き込みは、後ほどコンテンツ内に反映させていただくことがあります。あらかじめご承知おきください。
解決策リスト
「私」にできること
公共公園、自然保護区、農場など、いま都市にある緑地を守ります。
以下は、教育プログラムを提供し、生物多様性ゆたかな野生動物を守っている先進的な都市公園の例です。
- 自然科学研究所:東京、日本
自分の町で、緑地を保護したり、舗装を取り除いて植物や木を植える活動に参加します。
- 空き地や中央分離帯、路地、屋上などを緑地に変える
- 緑地が増えたことで、その地域の生物多様性がゆたかになった様子をコミュニティで観察し、記録できたら最高

かつて線路だった空き地に種をまき、さまざまな草花や樹木、虫たちと共生する「シモキタのはら広場」を育てています。
日除けを取り付けます。
- 近隣住民と相談したり、家主や都市計画担当者にお願いして、建物の間、公園、共用エリア、噴水やミストマシンなどの水回り設備に日よけの帆を設置します。
- これにより、直射日光から守られた場所に草木を植えることができ、水やりの量が少なく済みます。
- 日陰と植栽を組み合わせると、近隣の暑さを大きく和らげることができます。
- 野生動物の生息地と、人々の心身の健康を守ることができます。
バルコニー、屋上などの利用可能なスペースで都市農業を実践します。
- コミュニティガーデンに参加します。自分自身または市場のために、地元で果物、ナッツ、野菜、ハーブを栽培すると、それに伴って二酸化炭素排出量を削減できるという追加の恩恵も生まれます(詳しくは「都市農業」のページを参照)

都市部の遊休地に畑や田んぼを作り、メンバーと共に有機野菜を育てています。また、地域の子どもたちに対する食育活動や、地域での野菜の寄付活動なども行っています。
- 循環型コミュニティガーデン協会:地球環境に配慮したガーデンづくりや、地域コミュニティの活性化を目指す複数の団体が連携して運営する組織。新たにガーデンを立ち上げたい人や、今あるガーデンを環境やコミュニティにとってより良いものにしたい人を対象に、オンライン講座や実践的なイベントを開催しています。
- The Edible Park OTEMACHI:東京の大手町ビル屋上「Sky LAB」内に位置するコミュニティ農園。参加者全員で育て、収穫し、楽しむ共同栽培スタイルを取っており、収穫体験やワークショップなどの多彩なイベントを行なっています。
生物多様性高めるために植物を植え、花粉媒介者を助けたり、絶滅危惧種の生息地を作ったりします。
- 地域にいる在来の花粉媒介者や絶滅危惧種を調べ、それらを支える植物を計画的に植える方法を学びます。(詳しくは「花粉媒介者(ポリネーター)」のページを参照)
- 「宮脇の森」を育てます。この森では、その土地に元々生えていた複数種類の木を密に植えるという、独特な植樹方式を採っています。ここでは、木々は従来の植林地に比べて 10 倍速く成長し、30 倍の密度で、100 倍以上の生物多様性を実現します。

一般社団法人Silva(シルワ)
「宮脇メソッド」を継承・発展させ、土地本来の森を再生する活動を行っています。公式サイトでは、宮脇メソッドに基づく森づくりの方法について学ぶことができます。
水と緑の回廊を守ったり作ったりし、共有空間を活用する都市型住宅を取り入れます。
(詳細は「水と緑の回廊」のページを参照)
- コハウジング(個人の生活空間と共有スペースを組み合わせ、住民同士の交流を促す住宅形態)やエコビレッジ(持続可能な地域づくりを目指す街)として知られるコミュニティは、通常、共通の自然空間を取り入れて設計されています。これらは、コミュニティ作りや野生生物の保護、再生に最適です。
- こうしたコミュニティに住むことができない場合は、ツアーに参加して、近所に自然空間や共有スペースを増やす方法について学びます。
- 東京アーバンパーマカルチャー:永田町のビル屋上に設けたガーデンなどで、都市環境に適した緑化プロジェクトを実践しています。また、自然に循環に溶け込んだ暮らしの場である「パーマカルチャーと平和道場」の体験ツアーも行っています。
- パーマカルチャーデザインラボ:食べられる森「フォレストガーデン」づくりを広めるべく、東海地方を中心に活動する団体。耕作放棄地や保育園、公共の場所などのフォレストガーデンの設計・施工を手がけるほか、フォレストガーデンの体験ツアーやオンライン講座を行っています。
緑の回廊を作り、自然空間を他の空間とつなげて生物多様性を高めます。
- グリーンインフラは、鳥や蝶、その他の動物が、安全に生息地間を移動できるようにします。
- これにより、子どもたちが自然に触れる機会が増え、環境への理解も深まります。
都市の林業家や博物学者とつながり、一緒に自然を観察・記録し、生物多様性を高める都市再自然化プロジェクトを支援します。
- 仮想ネットワークは、アプリやSNS、Webサイトを通じて、寄付者をプロジェクトや地域の園芸・植栽活動とつなげることができます。
- SUGiというアプリは、ユーザーが世界中の都市林業プロジェクトとつながり、植林や再野生化に寄付・参加することをサポートします。(詳細は「再野生化」のページを参照)。
自然を増やし、都市の猛暑を和らげるインフラ対策を導入するよう、地方自治体や政府に働きかけます。
- キャンペーンや集会を行う
都市空間を冷やすための補助金や助成金を申請して、これまで紹介したような取り組みを広げてください。
それぞれの立場でできること
その土地に合った自然の要素を都市デザインに取り入れることで、野生動物の生息地を増やし、気温を下げ、洪水を減らし、生活の質を向上させます。
暑さに弱い地域などには、以下のような再生デザインを組み込むことができます。
空き地、屋上、中央分離帯、壁、放置された産業地や鉄道跡地を、植物を植えることで再生します。
- シンガポールの国立公園委員会は、1963年から続けているキャンペーンで毎年5万本以上の木を植えてきました。その結果、人口が2倍になった現在でも、国土のほぼ半分が自然に覆われています。
既存の都市公園を、暑さや洪水を抑える機能を備えた公園に改良します。
- 米国ではCity Parks Allianceが、都市公園への連邦投資を拡大するよう提案しています。
水と緑の回廊を作ることで、都市部のビーチ、公園、湿地、森林、農場などを他の自然空間と結び付けます。
- 花粉媒介者、鳥、その他の動物が移動しやすくなるように工夫することは、生物多様性を大きく向上させ、絶滅の危機にある種を守り、結果的にすべての生命を支えることにつながります。
- 研究では、幅わずか23メートルの野生動物の回廊でも生物多様性が目に見えて改善されることが確認されています。
「スマートサーフェス」:天然素材を取り入れた建築資材を製造・販売する企業に投資します。
- 人気のあるテクノロジーは、多孔質舗装、緑化屋根、太陽光発電パネル、樹木、反射性の高い涼しい屋根や舗装、およびこれらの組み合わせです。
都市空間の冷却と緑化を通じて、気候正義のための補助金や資金を得る機会を作ります。
事業所や企業の敷地、都市の建物を緑化する取り組みを進めます。
これは気温を下げるだけでなく、野生生物が移動するための回廊となる景観を作ります(「水と緑の回廊」のページを参照)。在来種の木を植え、その土地にあった自然や農業の特徴を取り入れます。
- カリフォルニアにある超近代的な Apple Park の敷地では、特別に設計された自然換気システムが、森林やその他の敷地内の環境と相互作用して空気を浄化し、換気の必要性を最小限に抑えています。
緑の回廊と、花粉媒介者や鳥、動物の生息地を整備、管理します。
- ガスや送電線は通常、景観を分断し破壊しますが、一部の公益事業会社は、これらの回廊を花粉媒介者や渡り鳥の生息地として活用し、メンテナンス費用を削減しています。
政治・法律 Governance
新築や改築のプロジェクトでは、透水性や、太陽光発電機能または反射機能を備えた屋根を義務付けます。
雨水や気候変動によって悪化する水害の危険を抑えるために、吸収性の高い天然素材を用いて都市を改修します。
- 中国では、植物が雨水を吸収し浄化する「スポンジシティ」を作り出すという野心的な計画が進められています。
- インド、ロシア、米国でも同様のプログラムが始まっています。
都市部で大規模な植林プロジェクトを成功させるには、組織が連携し、市民の協力を得ることが重要です。
- 2012年、中国の北京市は666 km2の植林計画を立ち上げ、5,000 万本以上の木を植え、市内に占める森林の割合を 45% にすることを目指しました。この大規模プロジェクトの背後にある政策は、Urban Forestry & Urban Greeningの記事で分析されています
地方自治体や国の行政機関に「最高熱対策責任者」のポストを新設します。
この役職は、より環境にやさしく涼しく、ギリシャのアテネのように、熱波への対応力のある都市を目指す部門を率いるためのものです。
環境政策と教育を組み合わせます。
革新的な資金調達方法は、社会的・人種的不平等と地球温暖化の影響を同時に解決できる可能性があります。
- アメリカの環境教育者が公開した、都市の自然を回復し、リーダーシップや都市農業、緑のインフラ、持続可能な都市計画、環境正義を推進するプログラムについてまとめたオンライン資料が参考になります。
都市の気候変動対策と公平性向上のために、いくつかの資金調達モデルを検討してください。
革新的な資金調達アプローチは、社会的、人種的不平等と地球温暖化の影響に同時に対処できます。
- メリーランド州ボルチモアでは、市全体に反射性や多孔質の地面や壁面を採用することで、最も暑い地域の夏の気温を2.5℃下げられるだけでなく、20 年間で 130 億ドルの経済的利益が得られると試算されています(かかる初期費用はこの10分の1)。また、30 年間で炭素排出量は 1,700 万トン削減することができます。
- 地方自治体で成功している資金調達モデルには、気候変動債券やレジリエンス債券の発行や、売上税、電力税、化石燃料生産税の導入などがあります。
他の政府機関が提供するリソースを活用して、自然豊かな都市がどのように経済成長を促し、観光客を増やし、雨水の管理や大気の改善を支援しているかを定量化します。
以下は、教育やサポートのために、さまざまな規模の政府機関が作成したリソースの例です。
- Excelベースの耐熱都市メリットツール:都市計画者や意思決定者が健康、経済、都市の気候変動に関する影響を定量化できるように設計されています。この情報を元に、都市の熱適応への投資を提案し、最も効果的と思われる行動に優先順位を付けることができます。
- 米国環境保護庁の Web サイト:ヒートアイランドの測定や解決に役立つリソースが多数あります。
- Smart Surface Analytic Tool:試験都市での研究開発 6 年間のデータに基づき、光、反射、多孔質、環境にやさしい地面や壁面の導入によるコストとメリットを分析できる無料ツールです。
※ このページはグローバル版NexusのNature of Citiesを下敷きにしています。
この記事へのコメントはありません。