森林農法は、林業と農業の組み合わせ。自然の生態系を真似することで、短期的にも長期的にも、経済も生態系も豊かになります。日本で広がる耕作放棄地も、森林農法で蘇る可能性があります。世界中の何百万人もの人々が行なっているこの賢い方法を、学びます。
※ 茶色は海外サイトへのリンクです。
知っておきたいこと
森林農法って何?
森林農法とは、森林と農業を組み合わせた再生型の農業手法です。食料を作りながら土地を管理することを目的とし、農場をひとつの生態系に見立てて、自然の力を活かして生産性を高めます。具体的には、森林農場、路地作物、緩衝地帯、林間放牧などの種類があります(「林間放牧」のページを参照)。
この方法は、昔から世界中で何百万人もの人々が実践してきたもので、農業生態学(アグロエコロジー)のひとつとされています。農業生態学は、農場を単なる食料生産の場ではなく、生態系の一部と考え、自然と調和した食料システムを作ることを目指す考え方です(「農業生態学*」のページを参照)。
森林農法は、人間、樹木、農業がどのように関わり合うかを、畑から森林まで、さまざまな規模で研究する科学です。
森林農法からはどんなものが得られるの?
多様な生産物
森林農法は、樹木や低木を含む生態系ならどこででも行うことができます。多年生の木や低木と、一年生の作物を一緒に育てることで、食料や繊維、飼料、燃料、木材、医薬品など、農家や地域に役立つさまざまなものを生産できます(「多年生作物」のページを参照)。
土壌の保護と改良
落ち葉や枝、腐った樹皮は地面に層を作り、水が浸み込みやすくすると同時に、土壌を有機物で豊かにします。また、樹木や低木、作物がもたらす日陰や湿気、有機物は、栄養素の吸収を助け、土壌を肥沃にし、炭素を蓄える土壌微生物を支えます(「荒れ果てた土地の回復」のページを参照)。
健全で豊かな生態系
木は、風や水による土壌の浸食を防ぎ、川岸を安定させて洪水を防ぐことで、流域を守ります。また、低木や花の咲く木は、ミツバチなどの昆虫に花粉を提供し、自然林のような環境は鳥やその他の野生動物の住処となります。さらに、耕地の間を移動できる回廊としても役立ちます(「水と緑の回廊」、「花粉媒介者」のページを参照)。
気候変動の緩和
樹木や低木を植えることで炭素を吸収し、温室効果ガスを減らすことができます。また、森林農法は土壌を健康に保ち、炭素を蓄える力を高めるため、気候変動の緩和に役立ちます。
多様な経済的利益
森林農法を活用すると、農家は多様な収入源を得ることができます。たとえば、徳島県上勝町では、荒れた林の間で葉わさびを栽培し、生産者の収入増加につなげました。また、イタリアのブドウ園では、鶏やガチョウなどの家禽(かきん)をオリーブの木立で放し飼いにすることで土壌が改善し、農家の追加の収入源にもなっています 。
美しい景観
森林農法は、裏庭のような都市環境でも行えます。自然の森林を思わせる、美しい景観を作り出すことができます(「街に自然を」のページを参照)。
森林農法を広めるにはどうしたらいいの?
消費者として支える
森林農法で作られた生産品を選ぶことで、その市場を買い支えます。
自分の庭で実践する
自宅の庭やベランダで、果樹や多年生の植物、一年生の作物を組み合わせて育てます。さらに興味を持った人は、「食べられる森(フォレストガーデン)」のアイディアを取り入れて、小さな森林農法を楽しむのもおすすめです。
寄付やボランティアを行う
森林農法を推進する団体に寄付をしたり、ボランティアとして活動を手伝います。特に、地域で行われている森林農法のプロジェクトに参加し、実際に手を動かすことは、仲間との出会いやさまざまな気づきにつながるはずです。
知識を共有する
自分の体験をSNSなどで発信すれば、森林農法の実践例やメリットを多くの人に伝えられます。また、講師を招いて森林農法についてのワークショップやセミナーを開催することは、自分や周りの人の学びにつながります。
もっと知る
書籍
『新版 これからの雑木の庭』高田宏臣/主婦の友社
『たまさんの食べられる庭|自然に育てて、まるごと楽しむ』中川たま/家の光協会
『森と暮らす 家族でつくる 森林ガーデニング入門』全国林業改良普及協会
『マザー・ツリー|森に隠された「知性」をめぐる冒険』スザンナ・シマール/ダイヤモンド社
国内サイト
国際農林水産業研究センター:アグロフォレストリーマニュアル(PDF)
協生農法実践マニュアル(PDF)
野菜を庭に馴染ませたポタジェガーデン!雑木の間で家庭菜園を!
動画
『ビッグ・リトル・ファーム|理想の暮らしのつくり方』(ドキュメンタリー映画)
海外の事例
World Agroforestry(グローバル):森林農法に関する研究と実践の世界的なセンター。
国連食糧農業機関(FAO)(グローバル):飢餓を克服し、食料安全保障を達成するための国連の取り組みを主導しており、森林農法プログラムも提供している。
CGIAR(グローバル):気候危機下で世界の食料、土地、水システムを変革するための重要な科学的イノベーションを主導している。
Regenerative Organic Alliance(アメリカ):農家や牧場主向けの認証プログラムがある。
The Overstory(アメリカ):森林農法実践者向けのオンラインジャーナル。
あなたの知識、シェアしてください!
以下は、森林農法を普及させるための取り組みです。似たような事例、まったく違う独自の取り組みなどをご存知の方は、是非コメント欄に投稿お願いします! 動画や本などのおすすめ情報も大歓迎です。
※ 特に参考になる書き込みは、後ほどコンテンツ内に反映させていただくことがあります。あらかじめご承知おきください。
解決策リスト
「私」にできること
環境再生型農業を実践する農家や牧場主、またはそれらを支える小売業者から商品を購入して、森林農法を支援します。
こうした農場や牧場から生産品を買うことは、他の農家や酪農家が同じ取り組みを始める後押しにもなります( 「環境再生型農業」のページを参照)。
- なかほら牧場(岩手県):なだらかな地形に楓・松・楢などの山林が広がり、野生動物も多く生息する自然豊かな土地で、山の植生を活用する「山地(やまち)酪農」という手法を用いて “牛なり・山なり・自然なり”の放牧酪農を行っています。
- すどう農園(神奈川県):相模原の里山で森林農法の自然農を営んでいます。
- 小井田立体農業研究所(岩手県):九戸村の傾斜地で、地域で昔から栽培されてきた手打ちくるみの木を中心に、乳牛、鶏を放牧する立体農業を行っています。

山間地や平地での放牧酪農で作った牛乳を使ってお菓子を作っています。北海道大学と連携し、放牧酪農を用いて土壌のCO2隔離量を増やす実証実験も進めています。
- 株式会社フルッタフルッタ:ブラジルトメアスの森林農法の拡大に貢献する目的で作られた企業で、主にアグロフォレストリーで栽培されたアサイーやアマゾンフルーツのピューレやスムージーを販売しています。
- 株式会社Dari K:チョコレート用のカカオだけではなくフルーツやナッツの混植を行う森林農法を推進しているチョコレートメーカー。カカオはもちろん、フルーツやナッツ類の販売も行っており、品質の良い商品には相応の対価を提供する「生産者が勝ち取るフェアトレード」をポリシーとしています。
- ナマケモノ倶楽部:森林農法によって育てられたコーヒーやチョコレートなどを販売。購入することで森が育ち、栽培する人たちの生活が守られます。
- 株式会社明治:森林農法によって栽培されたカカオを原料とした「アグロフォレストリーミルクチョコレート」を販売しています。
- Co・En Corporation:マダガスカルで森林農法でのバニラ生産を行うほか、森林農法によって作られたスパイス等も取り扱っており、多くのレストランやパティスリーに提供しています。

カンボジアの森で育った植物を原料に化粧品を製造し、オンラインストアや大型店舗を中心に広く展開しています。森林農法推進の活動「森の叡智プロジェクト」を行っており、自然災害リスクの減少だけでなく、雇用機会の創出の面でも貢献しています。
- 株式会社ウインドファーム:森林農法によって「森を守り、森を育てる」生産者から買い入れたコーヒー豆を販売しています。
自宅で森林庭園や食べられる森を育てます。
このアイデアは最初、ロバート・ハート氏の著書”Forest Gardening”で紹介されました。伝統的な庭園では草木は種類ごとに別々の場所に植えられることが多いですが、森林庭園ではそれらが自然のように草木が混ざり合って植えられます。
日本では古くから、梅や柿、チャノキなどが植栽として利用されてきました。胡桃や栗、ゆず、びわなどは、植えておくだけで毎年実がなることから、果樹を庭木利用するよさは近年見直されてきています。
- ぞう木りん:里山の身近な雑木林を再現する庭づくりを提案し、その目的に合った苗木や種子を販売しています。
- 花音の森:自然の草木や収穫のできる植物を組み合わせた庭づくりを提案し、施工やコンサルタントなどのサービスを提供しています。
- フード・フォレスト・ジャパン:新潟県十日町市の里山にある会員制の果樹園で、体験プログラムや森林庭園づくりの養成講座も行っています。
- パーマカルチャーデザインラボ:日本中に食べられる森を1,000個作るプロジェクトを進めています。
森林生態学を支援する団体に寄付したり、活動に参加してみます。
生物多様性を守るボランティアプロジェクトや、地域コミュニティの取り組みなどを応援するのもおすすめです。
- 特定非営利活動法人 環境修復保全機構:タイ国北部チェンライ県の傾斜地において、森林農法導入による緑化推進事業を行っています。
- FoE Japan:スマラン県ウンガラン群ルルップ村で森林農法を導入することで、持続可能で災害に強い流域保全の取り組みを行っています。
それぞれの立場でできること
森林農法を実践します。
樹木と作物を一緒に育てる際は、太陽光や水を奪い合わないよう慎重に設計し、時間をかけて管理する必要があります。一部の森林農法では、剪定や灌漑、栽培、家畜の慎重な管理など、総合的なケアが必要です。森林農法では、作物・動物・樹木の間の相互作用を活かすことで、生産性が高く回復力のある相乗効果が生まれます(「環境再生型農業」、 「農業生態学」、「植物の多様性」のページを参照)。
- アレイ栽培(alley cropping):木を列状に育てて路地を作り、その間で作物を育てること。列を作る木には、果物やナッツの木、材木用の木などが使えます。作物は、穀物などの単一の種類でも、複数の種類を組み合わせても構いません。また、家畜を放すと雑草を抑えたり、収穫後の残りを片付けたりするのに役立ちます。さらに、作物の栽培は木の根のコントロールにもつながります。
- 林間放牧:豚、牛、鶏、羊などの家畜を森林農法の環境に組み合わせること(「林間放牧」のページを参照)。
- 防風林:作物、家畜、建物を強風から守るために戦略的に配置された、木や低木の障壁。
- 生け垣:デザイン次第で、動物や人間の侵入を防ぐ生きたフェンスとして長く使うことができます。鳥や有益な昆虫の住処にもなります。
- 雑木林の森林農法:若い木や新芽を切り落とすことでさらなる木の成長を促す伝統的な方法。
主な生産物
- 森林農法で食用キノコを栽培すると、高い収益につながる可能性があります。必要な労働力は最小限で、キノコの発育は多くの場合、木や丸太によって生態学的に支えられています。ヒラタケやシイタケは最も栽培が容易です。
- ミツバチは、ほぼすべての森林農法システムに自然に適応します。彼らは木や植物の受粉を助け、蜂蜜をつくります。その他の昆虫も、飼育するものの選択肢に上がります。
- 淡水魚や池は、森林農法、特に稲作の分野で活用されることがよくあります。
- 森林農法では多様な薬用植物を栽培できます。
- 森林農法は、持続可能なコーヒーとカカオの栽培と相性がいいです。
- 木の実や果物など、さまざまな製品が追加の収入源と仕事をもたらし、生活水準を高めます。再生型森林農法の多様性は、多様な収入源を生み出します。
土壌と生態系
- 森林農法は、急峻な丘陵地帯の中でも特に、洪水が発生しやすい季節があるような地域で食料を栽培するのに効果的な戦略です。木や低木は土壌をしっかり固定して浸食を防ぎます。同時にこれらは、土壌に有機物を与え、栄養循環や水の浸透を助ける役割も果たします。
- 窒素固定を行う樹木や低木は、森林農法のシステムの一部として、作物に必須の栄養素を自然に提供します。
- 樹木や低木の落ち葉によってもたらされる有機物は、土壌を健康にし、作物の収穫量を増やします。また、水が土に浸透しやすくなり、水循環が良くなることで、農場は干ばつから守られます。
- 森林農法は、農場に野生動物の居場所をつくるのに役立ちます。農場の生物多様性が増すと、害虫の被害が減ったり、生産性が高くなるなどのメリットがあります。
森林農法に関係する研究の範囲を広げることで、大規模で環境変化に強く、公平な食料システムを構築します。
森林農法は、生態学や林業だけでなく、持続可能な農業の実践、社会科学、文化遺産、そしてそれらが気候危機を終わらせる可能性との相互関係も視野に入れて研究される必要があります。社会的、生態学的、経済的なメリットを研究することで、森林農法は農家、牧場主、その他の農業従事者にとってさらに役立つものになります。
- 美味しそうな森の環境研究所アグロフォレストリープロジェクト:国内外の森林農法研究者や様々な専門家など、所属の垣根を越えたフラットで純度の高い「アグロフォレストリー研究開発プラットフォーム構築」や「地球上の生物が共存できる環境維持」を目標とした活動を行っています。
- ミズーリ大学アグロフォレストリーセンターの研究プログラム:科学的な知見を実用化する上での良いロールモデル。
- 国連食糧農業機関(FAO)によると、森林農法などの多年生農業は、従来の食料生産よりも柔軟性があり、回復力があり、安全であるため、小規模農家や家族経営農家の生活を向上させる可能性があります。(FAOの研究推奨の一部)
- 多様な農場や牧場での複合栽培に最適な多年生作物を見つけ、育てるための研究が行われています。
- 耕作放棄地や荒廃した土地は、森林農法に適していることがわかっています。ここで森林農法を行うことで、食料を生産しながら炭素を吸収できる可能性が広がります。
経済的に実行可能で、生態系のためになり、回復力のある農業システムとして、森林農法を推進します。
- 森林農法で作られた製品を提供します。
- 製品の市場開拓を支援します。特に低所得国では、ニューヨーク証券取引所や東京証券取引所のような、投資家から安心できる取引場所と考えられているプライム市場へのアクセスが不足していることがよくあります。企業は、森林農法のメリットを顧客に伝えることで、この状況を改善する手助けができます。
- 企業は、森林農法製品の流通やマーケティングに、デジタル技術を活用できます。
森林農法に対して、オンセットの購入を通じた支援を行います。
オンセットとは、温室効果ガスを直接的に削減することで得られる炭素クレジットです。(「オンセット」のページを参照)
- 投資家は、短期および長期の投資を通して、森林農法と再生型農業を直接支援することができます。
- 森林農法プロジェクトを支援するオンセットを購入します。ゴールドスタンダードやカーボンファンドなどの組織は、森林農法や植林を通じて土壌の炭素量を増やすプロジェクトを財政的に支援し、信頼できるオンセットを提供しています。
政治・法律 Governance
森林農法に移行しようとする農家にとって障害となる要素、たとえば土地や水、作物の種子が手に入りにくいといった問題を取り除きます。
特に、慢性的な貧困に苦しむ地域では、森林農法を支援するための政策が必要です。
- 森林農法を含む持続可能な農業への移行を、政府がどのように後押しできるかは、ペルーの事例の分析により明らかになっています。
- 英国の報告書は、森林農法の普及を妨げる政策や経済的な障壁について調査しています。
- 政策を見直すことで、森林農法を活用して炭素を吸収し、土壌に蓄える市場の育成が可能になります。日本でも、森林農法を拡大する支援策の導入が望まれます。
研究、支援、教育プログラムへの資金を増やす。
農場での新しい取り組みや補助金、トレーニングなどを通じて、農家が森林農法に移行しやすくなるようにサポートします。
- USDA(アメリカ合衆国農務省)には、他の政府の参考となるような研究や実施、教育、採用の計画を示す「アグロフォレストリー戦略フレームワーク」があります。
- 森林農法を行う人々のネットワークには、製品を新たな市場に届けるための、政府の積極的な政策と財政支援が必要です。
※ このページはグローバル版NexusのAgroforestryを下敷きにしています。
この記事へのコメントはありません。